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「結構暗いんだな」
「映画が始まったらもっと暗くなるよ」
「へぇ」

 よっぽど珍しいのかまるで小さな子どものようにキョロキョロと辺りを珍しげに見回している。
 さっきまでの不貞腐れていた様子はもうすっかり無くなっている。

 館内が真っ暗になって映像が流れ始めると「すごい……」と一言呟いたっきり、瞬きも忘れてるんじゃないかと思うほどにスクリーンを食い入るように熱心に見つめ続けている。

 物語りが終盤に入ってくると辺りから鼻を啜る音が聞こえ始めてきた。
 俐音は涙を流しそうな雰囲気は無い。ただジッと画面に集中していた。

 映画が終わるまで殆ど動きもせずに同じ体勢でいた俐音はエンドロールが流れ出し、他の人たちが席を立ち始めると、伸びをしてから穂鷹の方を向いて「咽が渇いた」と催促。

 一体何を思ってあの恋愛映画を観ていたんだろうと疑問に思った。

「あ、俐音ちゃん五十円ある?」
「ない」

 確かめもせず即答する俐音。
 俐音は朝、高奈の店に来た時からずっと手ぶらで、財布とか一切の荷物の姿が見当たらない。
 女の子は出かける時に荷物が増えるというが、それは俐音には当てはまらないらしい。

「財布……持ってきてないの?」
「うん。お金は持ち歩かないようにしてる。嫌いなんだ」
「ほぉ、でも買い物とかどうするの?」
「これ」

 スカートのポケットから何気なく出されたのは小さくてぺらぺらなもの。
 紛れも無いクレジットカードだ。

「カード裸で持ち歩いてるの!?」
「え、うん。菊が持ってろって言うから一応な」

 それだって立派なお金なのだが、俐音にそういう考えはないらしく紙切れのようにペラペラ上下に振っている。

「でもこれ菊のだから、あんま使いたくないし。だから早くジュース買え」
「はいはい……」

 急かされて、ジュースを買って渡すと素直に「ありがと」と言って受け取った。

「あーやっぱ俐音ちゃんはいいね。響達だと絶対お礼なんて言わないよ」
「お前らって仲良いよな。中等部から一緒?」
「そうだよ。中一からずっとツルんでるとさ、不思議と響が何考えてるかとか分っちゃう時があるんだよ。阿吽の呼吸っていうの? 長年連れ添った夫婦のような」
「それは怖いな……」

 思いっきり眉間に皴を寄せた俐音は一体どんな想像をしたのか。





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