▼page.10 一日付き合えと言うと途端に不機嫌なった俐音を連れて、少し遅めの昼食を食べた。 食べ終わった頃には損ねていた機嫌が元に戻っていて、どうやらお腹が空いていただけだったらしい。 「どっか行きたいとこある?」 「メガネ屋」 食後に運ばれてきたジュースを飲みながら俐音は短く答えた。 満腹になって気分は落ち着いたものの、この状況は不服だという事だろう。 「や、それ以外にもさ……。時間はたっぷりあるよ」 「穂鷹が決めろよ。無理矢理引っ張ってきたの穂鷹じゃんか」 決定権を委ねられて、色々と考えを巡らせてみたが特に行きたい所というのも思い浮かばなかった。 「どこでもいい、かな」 穂鷹が素直にそう返せば、俐音は呆れたと言わんばかりに顔を顰めた。 だが、何か思いついたらしく口を開きかけ、またすぐに閉じる。 そしてチラッと穂鷹を窺い見てすぐにジュースに視線を落とした。 「どこでも……いい?」 「え? うん」 「じゃあ、お金は全部お前持ちって言うなら行ってやってもいい……所がある」 どうしてかは分からないけど、何やら恥ずかしいらしくストローに空気を送ってジュースをポコポコと鳴らして気を紛らわしてるけど、顔がちょっと赤くなってる。 俐音のこういった表情は珍しく、穂鷹は気づかれないようにこっそりと笑った。 「なんかさー、こうやってるとオレ達って本当に恋人同士みたいだよねぇ」 「穂鷹ぁ、あんまふざけた事言ってると口にコップ突っ込むぞぉ?」 穂鷹の間延びした口調を真似る俐音の目は明らかに据わっている。 まずいと察した穂鷹は急いで話題を元に戻した。 「で、どこ? どこに行きたいのかな?」 「映画館……」 * 言いにくそうに呟いた俐音の一言により、二人は映画館に向かった。 何を観ようかと建物の前に張ってあるポスターを眺めている俐音を穂鷹は見やった。 現在どんな映画が上映されているのか全く知らないみたいで、目的のものがあるわけではないらしい。 「これとかどう?」 穂鷹が指差したのは、話題の恋愛映画だった。 俐音は恋愛という言葉から疎遠に思えたから、物凄く嫌そうな顔をされるだろうと想定して言ったのだけれど、あっさりとその予想は外れた。 「それにする」 「え、いいの? 恋愛映画だよ!?」 「内容はどうでもいい。ただ映画館で映画を観てみたかっただけだから」 ああ、どうでもいいか。と妙に納得してしまった。 「つか、俐音ちゃん映画館来たこと無かったの?」 「……ないよ」 穂鷹が買ったチケットを受け取りながら、口を尖らせてそっぽを向く。 先ほども口を濁していたのは、今まで一度も来た事が無いというのが恥ずかしかったからだ。 「わぁ、じゃあオレが俐音ちゃんの初めてもらっちゃった」 「……アホか」 何も突っ込んでこない穂鷹に内心安堵しつつ、悪態を吐いた。 前 | 次 戻 |