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「オレの笑い方ってそんなぎこちないの?」
「うん」
「うわーっ、あっさり…」
「初めて屋上で会ったときから、変な笑い方する奴だなって思ってた。けど、神奈たちと話してるときは普通だから、ああ、こうやって境界線作ってるんだなぁって」

 穂鷹の何気ない態度に壁を感じる事もあったが、少しすればそれもなくなって普通に笑うようになっていた。

 何も言わなかったのは、言えば余計に穂鷹が気にするだろうと思ったからだ。

「俐音ちゃんって自分には関係ないとか、巻き込むなとか言うくせによく人のこと見てるよね……」
「そうか?」

 そうだろうか。
 理解できる事なんて、顔に出るほんの表面的な部分だけで、穂鷹が心の中に何を溜め込んでるのかなど、そういう肝心なところは全く見えていない。

「オレはそういうの全然分かんないからさ。怖いんだ、相手が今何思ってんだろとか考えたら。笑ってるけどもしかしたらめちゃくちゃオレのこと嫌ってるかもしれないとか」
「えらくネガティブだな」
「本当のオレはいっつもこんなだよ」
「私だって何も解んないよ。ていうかそんなん怖いだろうが」

 それこそ、笑ってるのに心の中で物凄く悪く思われているなんて知ってしまったら?

 そんな事は知らない方がいいのではないか。

「広く皆に好かれようとしたら、今までみたいに上っ面だけで笑ってた方が無難かもしれない。でも、そうじゃなくて本当のお前を好きになってもらいたいなら……怖くても全部曝け出した方がいい」

 簡単に出来ることじゃないと、俐音自身がよく知ってた。
 つい先日まで、女である事をBし通していたのだから。
 本当のことを知って嫌われたくないと言っていた。

 それでも、俐音は俐音だと受け止めてくれたのは他ならぬ穂鷹達。

 だから私も穂鷹に同じものを送ろう。

「それでお前を嫌いになるような奴の事なんて放っておけ。少なくとも私はならないよ」
「俐音ちゃん」
「神奈や先輩達だって、バカでヘタレでやられキャラな穂鷹のこと知ってても、嫌ったりしてないだろ。いつまでもちゃんと友達でいてやるから」

 普段よくやられるお返しとばかりに、乱暴に穂鷹の髪をかき回した。
 こうされると、子ども扱いされている気がするが、同時に落ち着きもする。

「そんな身構えんなよ。な?」
「うんアリガト。何だかすごく貶された気もするけど嬉しい」
「悪かったな! こういうのはガラじゃないんだよ」

 穂鷹の横を抜けて先に進もうとしたが「ちょっと!」と腕を掴まれて、立ち止まらされた。

「どこ行くの」
「どこって家だけど。ここからなら、店行くより直接帰ったほうが早い。荷物は二学期にでも学校に持ってきて」
「ダメだよ、まだ帰っちゃ!」

 脅されて厭々だったが、今日呼び出された目的は果たしたはずだ。
 それとも、まだ残っているとでも言うのだろうか。

 全く謂れの無いことで女の子たちの恨みを買ったけど、もう二度と会うこともない子たちだろうしそれはいい。だがまだ同じ様なことをさせられるならご免被る。

「オレ電話で言ったでしょ?」
「何? ……あっ、メガネか」
「まぁそれもね。それと『今日一日オレに付き合って』って言ったんだよ」

 それはもう高奈さんにそっくりな笑顔を湛えて穂鷹は言った。

「はぁ!?」


――現在、午後一時

今日はまだまだ長い――




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