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「いっつも笑ってる人間なんているわけないだろ。なら、無理して笑ってるに決まってるじゃないか」

 今まで周りの空気に呑まれて殆ど何も口出ししてこなかった俐音の、わずかに怒気を含んだ声に穂鷹を含めた全員が驚いた。

「穂鷹のちゃんとした笑顔はもっとずっとカッコいいんだ。どんなに付き合いが長くたって、嘘臭い笑顔貼っつけたコイツしか知ろうとしないなら、そんなの意味ない」

 勢いに任せて言ってみたはいいものの相手の反応は無く、しんと静まり返ってしまったのが怖くて俯く。

沈黙を壊したのは穂鷹だった。

「俐音ちゃん……おっとこまえ」
「悪かったな!」
「いや、悪くないから。むしろ惚れる」

 今し方、カッコいいと言ったばかりの笑顔を向けられたが、疲れきった俐音は反応を返す気になれない。

「あはは、まあそういうわけで、ごめんね」

 俐音の肩を抱いたまま歩き始める穂鷹に、歩きにくいから離せと言おうとしたのだが、まだ恋人設定は続行中だったと思い出して大人しく付いて歩く。

 後ろを振り返る気になれなくて、でも少し気になった俐音は穂鷹の様子を窺った。
穂鷹は俐音の視線を感じて、なぁにと笑った。

「驚いた。お前でもあんな風に人を突き放したり出来るんだな」
「んー、初めてかもね。オレって基本来る者拒まずだから」
「違うだろ」

 へラッと笑う穂鷹の顔を軽く叩いた。

「拒めないだけのくせに」

 肩に触れていた手が僅かに震えたのを感じて、その指先を見る。
 もう公園から離れたので大丈夫だろうと払い落とした。

「優しすぎるんだよ、お前」
「……オレが?」
「でも、それが空回りしてる」

 相手が穂鷹に好意を持って接してくれば、突き放せない。
 好きだと言われれば、相手に何の感情も抱けなくても無碍にはできない。
 そうと解って寄って来る女の子は多くて、みんなに優しく甘く接する。

 でもやっぱり本心からじゃないから、その笑顔は貼り付けたような不自然なものになってしまう。

「ていうか、前に一度言ったよな? いつか痛い目みるって。折角人が忠告してやったってのに! しかも巻き込みやがって」
「俐音ちゃんに忠告された事もあって女の子切った結果がこれだよ?」
「人のせいにするのか?」

 威嚇してくる俐音に、そうじゃないけどと眉を下げて笑う。

「そういうのやめろよ……」
「え?」
「だから、作り笑いはやめろって言ってんの」

 手を伸ばして穂鷹の頬を軽く抓る。
 驚いてまじまじと俐音を見てくるが、口は半開き。
 でも、こっちの方が良い。





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