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「お母さんは私が女だって知ってたんですか?」
「お母さん?」
「あ、すみません、そうじゃなくて……」
「やったわ!」

 結婚を前提にお付き合いしている恋人でもあるまいし、息子の友人にお母さんなどと言われて不快に思っただろうと謝った俐音の手を握ってニコニコと笑う成田の母親。

 やったわ、ってどういう意味だ?と思考がついて行かずに、首を捻った。

「私実は娘が欲しかったのよ! 俐音ちゃんがなってくれるのね」
「え? いや……はい? 娘って今からなろうと思ってなれるものでは」
「方法はいくらでもあるわよ。そうね、一番穏便なのが穂鷹のお嫁さんよね。あ、でも年齢が足りないかぁ」

 俐音に口を挟む間も与えずに、どんどん将来についての話がまとまり出している。

「大丈夫。既成事実さえあれば!」
「ちょっと何言ってんですか!?」

 成田そっくりな笑顔でとんでもない事を言われて、慌てて俐音は手を振り解いた。
 放っておくと後戻りが出来ない所まで話が飛躍してしまいそうだ。

「残念。そうねぇ、じゃあ私の事は高奈さんって呼んで」
「えと……高奈さん、成田に私が女だって聞いたんですか?」
「いいえ、女の子が来るからって言われただけよ」

 俐音を鏡の前のイスに座らせて、顔を自分の方に向かせた。

「あの子の数少ないお友達の顔を私が忘れるわけないじゃない。俐音ちゃんがどうしてあの学校に通ってるのかってのは、まあひとそれぞれ色んな人生があるって事よね」

 「はーい、動かない!」と作業に集中するから話はこの終わりとばかりに笑った。
 ここで話が終了したのは俐音としてもありがたい。

 徐々に顔に施されていく化粧の過程を眺めていると「若いっていいわね……」と呟いたのが聞こえてきたが、取り敢えず黙っておいた。


「はい、終わった」
「ありがとうございました」

 立ち上がって、自分の姿を改めて確認する。ここに来てからというもの、ずっと男の子の格好しかしていなかったから何だかとても違和感を感じた。

「俐音ちゃん! うわー可愛い可愛い」

 支度のできる頃合を見計らって部屋に入ってきた成田が、ニコニコと笑って俐音の頭を撫でる。

 その動作は小動物に対する扱いと同じで、可愛いのニュアンスもそうだろうと、成田の手を振り払った。



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