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 俐音は足音を消して入り口に近づき、必要以上に力をいれてドアを開けた。
 その瞬間、ゴツンッ、と素晴らしく鈍い音が廊下や部屋中に響いた。

「なにしてんだ菊」

 自分が出せる一番低い声を、頭を押さえて床に蹲る菊に対して吐き出した。
 しかも片足を菊の肩に乗せている。まるでケンカの勝者と敗者の構図だ。

「え? あはは、いやー……どんな会話してるのかなーってちょっと気になってシマって」
「……お前」
「だって、女子高生たちの会話なんて滅多に聞けないんデスもん!」
「こんの変態が! もう一生地下から出てくんなっ!!」

 そのまま菊の肩を思い切り飛ばして階段から突き落とす。
 下から「ぎゃー! 眼鏡割れた!」と元気よく叫んでいるのを確認して鼻を鳴らして部屋に戻った。

「ね、ねぇ菊さん大丈夫なの? 階段から落ちたよね!?」
「大丈夫、大丈夫。あいつメガネいっぱい持ってるから」
「そういう事じゃないと思う……」

 冷酷な俐音の態度をこれは心配する必要がないという事だろうと、出来る限り前向きに捉える。

「何だかすごいね」
「何が。疲れるだけだ」
「でも楽しそうだよ」

 穏やかに笑った彩は、すぐに顔を曇らせた。

「彩ごめん、話の腰折って」
「……うん、俐音あのね。ど、どうしよう、あたしが女だってバレたかもしれない!!」
「はぁ? どこで誰に、どういう状況で!?」
「し、知らない人、多分上の学年の人だと思う……。えっと、昨日寮の前でぶつかって『女?』って訊かれて」
「それで、どうしたの?」
「……逃げた」

 うーん、まあ逃げるよなぁ。

 その時の状況を想像しながら俐音は唸った。
 おそらく俐音であっても同じ事をするだろう。

「どんな奴だったの」

 相手を探し出してどうこうしようというのではない。
 むしろその逆だ。

 万が一、また学校で遭遇してしまわないよう、相手が気づく前に彩の手を取って逃げられる為にはどういった人なのか知っておく必要がある。

「んと背は結構高めで髪が短くて、声は低くて」
「うん、彩ちょっと落ち着け? 抽象的過ぎて全くわかんないよ。大多数の男が当てはまるから、それ」
「ハハハ、そんな心配しなくても大丈夫デスよ。学校側はあなたが女性だって知ってるんデスから。上手く揉み消してくれマスって」

 確かに学校側というか、理事長が何とかしてくれるだろう。
 ああそうか、と頷いた俐音はベッドの前にしゃがみ込んで、見上げてくる菊がいる事にようやく気が付いた。

「…菊―――!!」




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