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「初めは何がいい?」
「これとか……」
「壱都先輩……線香花火はシメですよ!」
「打ち上げがいいんじゃないか?」
「いいねー。じゃあドドンといってみようか!」
「何でオレの方向けんの!?」
「花火の力を借り、天高くまで昇って穂鷹の存在を全世界に知らしめ……」
「られないから! まずオレは打ち上がらないから!!」

 リビングから漏れる光を頼りに、暗い庭先で買ってきた花火を並べて、どれが良いかという議論をしていたはずがいつの間にか逸れていっている。

 そんな普段通りのやり取りに俐音は小さく笑い、その中に参加していない人物を探した。

「神奈!」
「あ?」
「やんないの?」

 一人、リビングと庭を繋ぐ窓に腰掛けて傍観を決め込んでいた神奈の隣に俐音も座る。

「もうちょい続きそうだと思ってな」

 まだ、これだあれだと言い合っている緒方達を見た。
 確かにもう少し掛かりそうだ。

「んで、お前の願い事は叶ったか?」

 突然話が飛んだものだから頭がすぐにはついて行かず、暫く沈黙してから、ああと頷いた。
 男の子が母親のために祈ったように、手伝いながら俐音も自分の願いを込めたのだ。

「多分……そうだと思う」
「ほらな、そんなもんなんだ」

 願いが叶う瞬間なんて、実はもう成就しているという事に気が付かないほどに呆気ない。

 浚われた最後の砂がいつ波に呑み込まれていったのかも分からないほど、ふとした瞬間にそれは起こる。

 ――今度こそ差し伸べられた手が離れることのないように――

 きっと叶ったのだと思う。
 俐音が女だと知ってからもみんな態度は何も変わらない。
 今までと同じように接してくれる。笑っている。

「案外呆気なかったけど……でも嬉しい」

 そう言って微笑む瞳には、いつもある過去に向ける哀切の色はどこにも見当たらない。

「リンリーン!響! やるよーっ!」
「はーい」

 二人は立ち上がってみんなのいる方に向かって歩く。

 ふいにあがった耳に残る破裂音にどちらともなく上を見上げると、季節を先取りした花火の光が散りばめられ、星と共に夜空を彩っていた。





end




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