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「洞窟の奥まで行けても祠まで辿り着ける人は少ないと言う。私も行き止まりまで歩いたが何もなかった。まさか本当にあったとはねぇ」
「普通にありましたけど」

 一本道をただ辿って行っただけだ。
 あれが見つけられないなんて事があるだろうか。

「鏡が人を選んでいるのかもしれないわね」
「それは私が選ばれなかったと言うことかね!?」
「当然の結果のように思われますが。それより、あの鏡にはね、自分が考える自分の姿が映るのだそうよ」

 自分が誰よりも美しいと思えばそのように。
 ありのままを受け入れる者には何も変わらぬ姿が映し出される。

「その者にとっては真実であっても、現実ではない。見なさい、今この鏡に映っている姿こそが君だ」

 ニコリと笑う医師に渡された何の変哲もない手鏡に映るのは今の俐音。

「その様子だとあまり良いものが映らなかったのだろう。だが現実の君は自分に怯え、心細さを隠しきれないでいるただの女の子だ」

 力強く俐音の肩に手を添えた医師の言葉は温かく、ざわついていた心は凪いでいく。
 手鏡をもう一度覗いて、今のままでいいのだろうかと自分に問うてみた。

 だが思い浮かんできたのは答えではなく、たった今聞いたばかりの医師の言葉。

「いや、勘違いしてるみたいですが、俺は……」
「あ、もうさっき俐音ちゃんが女の子だって先生にさっき聞いて知ってたよ」
「……はぁ!? ちょっと何してくれてんですか。これでも、バレて嫌われたらどうしようとか、最悪いじめに発展しないかとか色々悩んでたんですよ!?」

 四月から三ヶ月以上もの間、本当のことを言うべきか否かで散々迷い、時間が経てば経つほど口にするのは躊躇われ、何度も菊に呆れられもしていた。

 それなのに、みんなに告げたのが俐音でなければ、事情を知る菊や理事長ですらないなんて。

起 き上がって医師のネクタイを掴み、どうしてくれるんだと迫った。

「イジメって。オレ達そんな事しないよ! 心外なんだけど」
「人間の感情なんてどう転ぶか分かったもんじゃないだろ!」
「リンリンって人間不信?」

 俐音を医師から引き離しながら、もう十分元気になっているのではと成田と緒方は思う。
 威嚇するように唸る様子は威勢の良い猫のようだ。

「もうこれだけ動けるなら大丈夫だろう」

 医師も同じ事を思ったらしく、無理をしてはいけないよと念を押しつつも、帰っていいよと言ってもらった。




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