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 ドンと音がしそうなほど思い切りぶつかったせいで神奈は息が詰まりそうになって眉を寄せたが、自分にくっついたまま動こうとしない俐音の肩が小刻みに震えているのに気が付いて、文句を言おうとした口を閉ざす。

「大丈夫か?」

 何気なく目の前にある小さな肩に手を乗せると、大げさなほど体を揺らしてそのまま一歩後ろに下がった。

「ごめん大丈夫。ただ……、む、む、ムササビに追いかけられる怖い夢見たんだ!」
「………ムササビ?」
「そう! ムササビのお腹にでっかい口があって吸い付いて来ようとすんの。それにやられたら血吸われて死んじゃうんだ。神奈みたいに」
「お前勝手に人を夢ん中で殺すなよ!」
「その夢めっちゃ怖ぇーっ!」

 怖いと言いつつケラケラ笑う緒方は、随分と顔色の良くなった俐音を見て大丈夫なのだろうと思いもう一度笑った。

 成田達に夢の詳細を語ってみせる俐音の視界が真っ暗になったかと思うと目元にじんわりと温かな感覚がして、誰かの手が当てられたのだと分かる。そして誰が目隠しをしているのかも。

「福原先輩?」
「無理しちゃ駄目だよ。ちゃんと横になって」
「そうですよ、まだ安静にしてないと。どこかの役立たずみたいに無理やり眠らせちゃいますよ?」

 うふふ、と笑顔で物騒な事を言う看護師を、俐音は横になりながら不思議そうに見やった。
 何の事を言っているのかサッパリ理解出来ない。

 けれども俐音の疑問をぶつける視線を看護師は器用に受け流し、その他全員も何も教えてくれそうにない。

 福原によってきっちりと布団を掛けられた状態で、一体何なんだと自分だけが除け者にされているようでふて腐れていると、何か言いたげにしている緒方と目が合った。

「……ねぇリンリン、あの鏡に何が映ってたの?」
「別に……俺が映ってただけですよ」

 そう。鏡を覗き込んだ俐音と正面から対峙したのは紛れもない俐音の姿だった。
 ただ今とは違い、背中に届きそうなほど髪の長い以前の姿だというだけ。

 真実の鏡は嘘を見抜くと言っていた。
 今の俐音は偽りで、映りこんだ以前の姿こそが本当の俐音の姿だという事だろう。
 それは正しい。あの鏡の力は本物だ。

「鏡って、真実を映す鏡のことかい? 見つけられたのかね!?」

 俐音が自分の世界に入りかけた瞬間、向こうの方から興奮気味に問いかけられて、誰が言ったのかとキョロキョロ周囲を見渡してみる。

 カーテンが開けっ放しだから奥にある机までが見えて、今まで全く動かなかったので白衣を着た人形だと思っていたものが、勢いよく立ち上がってこちらに向かってきた。



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