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「祠が見当たらないんだけど!?」
「探すのも醍醐味なんでしょ」

 朝も早くから叩き起こされて、俐音は少し不機嫌な声で緒方にそう答えた。

 張り切って祠探検に出てきたはいいが、海岸付近を歩いてみたがそれらしいものは見当たらない。

「子ども、他に何か言ってなかったか?」
「その祠ってのが、ある時と無い時があったり、扉が開いたり閉じたりとか……」
「なんだそりゃ」
「いや、子どもの話だから要点がまとまってなくて」

 身振り手振りを交えて懸命に説明してくれるものだから、俐音も真剣に聞いていたのだが、話自体が曖昧で余計に理解し辛かった。

「今は無い時って事か?」
「かもしれない」
「……なあ、ずっと気になってたんだけどさ」

 小暮が顔をある一点に向けて言い淀む。
 同じ方向にその他全員の視線が集まって「いやいや」とか「ないない」など首を横に振った。

「俺もそうは思うけどさ。さすがにあれは……って。でも他に考えられないだろ?」
「だよね、でもなんていうか……ベタすぎる」

 緒方の言うベタな場所とは、崖の下にある洞窟のこと。
 みんな洞窟があることは見ていたが、あんなに分かりやすい場所にあって、地元の人がどこにあるのか知らないなどという事はないだろうと除外していたのだ。

 だが、その洞窟以外で祠がありそうな所もなく。「仕方ない、行ってみるか」と諦めと妥協が滲み出た緒方の言葉は全員の気持ちを代弁していた。





 洞窟は高さも幅もある大きなもので、奥行きも陽の光が入り込まないほど続いていた。

 何故か、必要になると思ったからと懐中電灯を持ってきていた福原を先頭に薄暗い道を進んでいく。

 いくらか行ったところで、滑って転びそうになった俐音が隣にいた神奈の肩をすんでのところで掴み、けれど結局二人して前に倒れ込んだ。

 福原は見事に二人を避けて端に逃げ、ニコニコと笑顔で二人に懐中電灯の光を向けた。

 後ろにいた三人は何が起こったのかいまいち掴めないまま突っ立っている。

「いった、俐音お前なぁ……」
「いや、ごめん。咄嗟の事で俺にもよく分かんなくて」

 ぬるっとした何かを踏んだ感触があって、後はもう滑ったと思った瞬間には神奈を巻き込んでいたのだ。

 立ちながら神奈が下を見るとあちこちにワカメらしきものが落ちていた。

「海藻があるってことは満潮になったらここ浸るな
「祠がない時ってそういうことか?」
「やっぱここで合ってんのか」

 確信を持ったが洞窟はまだ続きそうで肝心の祠はまだ見当たらず、さらに奥に進む。


 薄暗く、狭い道をひたすら歩いていると、緒方がこれは肝試しにちょうど良いと言い出し、どこから仕入れてきたのか怪談話を幾つか語った頃、ようやく広い場所に出た。

 天井がなく、外からの光が差し込んでいて、その中にぽつんと小さな祭壇が置かれていた。

「これのことか?」

 小さな祭壇に古い鏡が奉られていた。
 人の顔がちょうど映るくらいの大きさの丸い鏡は、塩水に晒されるせいか、ところどころ腐敗している祭壇とは違いまるで毎日磨かれているかのように綺麗だ。



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