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「リンリン泳がないの?」
「水着持ってませんので」

 一応、菊が準備していたカバンの中を確認したが水着は入っていなかった。

 水着なんて買った覚えはないから、家のどこを探してもあるはずがないのだが、あの菊ならどこからか入手しているのではと勘繰ったが、さすがにそこまではしていないようだ。

「そうなんだ? じゃあオレの……」
「いらん!!」
「やっぱオレと俐音ちゃんじゃサイズ違いすぎるもんねぇ」
「……あんま余計な事言ってると向こうにあった診療所にぶち込むぞ?」

 成田の首にそっと手をつけてニヤリと笑う。
 海岸沿いを歩いている時に、小さな診療所があったのを俐音は見ていた。
 海で遊んでいる間に怪我をしたのか、暑さに負けたのか、水着姿のまま出入りしている人が目に入って不思議な光景だと思いよく覚えている。

 ひたりと当てられた俐音の冷たい手に、成田は頬をひきつらせた。

「鬼頭は俺と休んでような」

 優しい響きのある声と共に後ろから伸びてきた腕にぎゅっと抱きすくめられた。
 普段なら、冷房の効いた涼しい部屋の中だからなんとも思わなかったが、炎天下の中でジッとしているだけで汗を掻くというのに、こうもくっつかれるとたまったものではない。

「福原先輩暑いです……」
「え! イッチーも泳がないの? 着替えたのに!?」
「うん、だって暑いから」
「暑いのならひっつかないで下さい!」

 無理矢理に福原の腕を引き剥がした。
 離れた部分が空気に触れるとそこの温度が一瞬だけ下がって、ホッとする俐音とは対照的に、暑いと言いつつも全くそうと感じさずに福原は笑っている。

「鬼頭、日陰に行こう?」

 ニコニコと表情を崩さないまま手を差し出されて、福原には何を言っても無駄かもしれないと段々悟り始めた俐音は大人しくそれに従った。


 俐音と福原は日陰に入り暫く海を眺めていたが、少し離れた所にしゃがみ込んでいる人影を見つけた。

 大きさからいって子どものようだが、二人に背を向けているから何をしているのかまでは分からない。
 興味を引かれた俐音はその子どもの方へ歩き出してしまった。
 福原も渋々といった様子で立ち上がる。

「何してるの?」

 声をかけると、顔を上げた男の子はまだまだ幼い。
 突然現れた俐音に物怖じする事なく、男の子は人懐っこく笑った。

「お山作ってるの!」
「こんなところに作っても、すぐ崩れちゃうよ」

 男の子がせっせと砂をかき集めている場所は明からに海に近すぎて波が当たってしまいそうだ。
 もうすでに水を多分に含んだ砂を積み上げていくのも難しい。

「いいの」
「……いいんだ?」

 どういう事だろうと顔を見合わせた福原と俐音に、忙しくスコップを使って真剣に山を築いていた男の子はそのままの面持ちで二人を見て言った。

「うん! だってね。願いが叶うんだよ」





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