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「だってオレら常習犯だもーん」
「キモ……」

 成田の猫なで声に、苦虫を噛み潰したように顔をしかめる俐音。

「ええぇっ俐音ちゃんヒドくね? 何気に毒舌キャラ?可愛い顔してるくせに……」

 打ちひしがれている成田を放置して、俐音と神奈は席に着き担任は教卓に戻った。

 神奈が俐音の前の席に座るのを見て、ああ、そう言えば朝空席だったし、式典の間も隣は空いていたと今更ながらに思い至る。

 その様子を黙って見守っていたクラスメイトの中の一人が、席に向かう成田の横をこそこそと通り抜けて廊下に転がったペンケースと散らばった中身を拾い上げた。

 小柄な子だった。俐音よりも少し小さいかもしれない。

 どうやら担任はその子の机の上にあったのを勝手にひったくって投げたらしい。

 その子は担任に文句を言うつもりは無いらしく、そのまま大人しく椅子に座る。
 皆も平然としているので、きっとこういうことは日常茶飯事なのだろう。

 本当にあいつは教師なのか?という疑問が俐音の中によぎった。


 その後はスムーズに話が進み、すぐに帰れる事になった。

 といっても他のクラスよりは随分遅かったのだが。

 入学式のため二、三年生はおらず、他のクラスの生徒はもう帰っている為静かな廊下を歩いていると、後ろからガシッと肩を掴まれた。

「ちょっと俐音ちゃん! どーいう事!?」
「は?」

 良くわからないが走って追いかけて来たらしい成田に向き直る。

「何の挨拶もなく帰るか? って事だろ」

 俐音の疑問を察して、神奈が悠々と歩いて近づいて来ながら説明してくれた。

「『バイバイまた明日』って言ってくれなきゃ寂しいじゃん!」
「それだけの為に走ってきたのか」
「友達だもん」
「友達なのか?」
「ええぇっ!? 今日の中で一番ビックリしたよ!!」

 両肩を掴んでガタガタと揺さぶられている俐音は神奈に視線を向けて助けを求めた。
 髪は乱れるし、眼鏡も段々とずれてきて外れそうで怖い。

 傍観を決めていた神奈はそれに気づいて、無造作にカバンを成田の左頬にめり込ませる。

「いい加減ウッセー」
「ご、め……、なさ」

 頬にカバンを押しつけられたまま謝る成田。

「悪かったな、バカがウザくて。じゃあまた明日」

 俐音に向かってニッコリ微笑んで、神奈は成田を引きずって行ってしまった。

 引きずられながら、手を振ってくる成田に小さく同じ動作を返しながら、俐音はしばらく二人を見送った。

 あの最後に微笑んだ奴は一体誰だ? と考えながら……。

 まだ知り合って数時間。
 神奈という人物がどういうものか把握できていない俐音でも、有り得ないと思うほどにさっきの笑顔は衝撃的だった。





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