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「ごちそうさま」

 皿に残っていた米の一粒まで綺麗に平らげて俐音は丁寧に手を合わせた。
 六人がけテーブルに所狭しと並べられていた料理は全て空になっている。
 それに小暮は満足げに笑った。

「リンリン夏バテ知らず……」
「ほんっとよく食べるね」

 最初から最後までペースを崩さずに黙々と食べ続けていた俐音を、すでに箸を置いていた緒方と成田は関心するようにずっと眺めていたのだ。

「その体のどこにこんな入るんだか」
「育ち盛りなんだよ」
「育ってないだろ」
「うるさい。神奈は食べないからそうやって人の揚げ足とるような事ばっか言うせこい人間になるんだ」
「明らかに関係ないな」
「カルシウム不足野郎!」

 向かい合って静かに火花を散らす神奈と俐音を、成田はどっちもどっちだと思った。
 放っておくといつまでも続きそうだ。

「俐音ちゃんが育たないのはやっぱ朝食べないからじゃないの?」
「だってお腹空かない」
「でもいっつも変な時間にお腹鳴ってるじゃん」
「それは朝食べてないから」

 全くもって悪循環だ。だけど俐音はその食生活を改善する気はないらしく、そのまま会話を打ち切って重ねた皿を持って立ち上がった。

 俐音と神奈が言い争っている間に、午後の予定は緒方達によって決められていたらしく、後片付けが
 終わると、さあ早くよと急かされるようにすぐ近くにあるという海に向かう事になった。





 海の家や屋台が立ち並ぶビーチを随分と通り越し、混雑していた人の姿もなく閑散とした場所まで来てから砂浜に降りた。

 全員が用意をしている間、俐音はぼんやりと波打ち際で立っていた。
 たまに足に海水が当たってはビクリと体を揺らし、慌てて後退ってはまた恐る恐る前に出る、をずっと繰り返している。

「何やってんの、俐音ちゃん?」
「あ、うん。海を堪能してる。変な気分」
「もしかして初めて?」

 成田の質問に無言で頷きながらも、視線はずっと寄ってくる波打つ海から離れない。釘付け状態だ。

「触ってみたら?」

 俐音の手を取って屈ませ、そのまま水に浸らせる。
 ただの塩水だろうが「おお」と言って何度もパシャパシャ音を立てて遊んでいるから、何か感じ入る所があったのだろう。

 しばらくするとそれにも飽きたらしく、立ち上がって荷物を置いている場所に戻って来た。



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