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「着いたよ」
「ん……」

 マッスルボディが関係あるのかないのか、運転手のの巧みなハンドル捌きのお陰で俐音は一度も安眠を妨害されることなく、避暑地に到着した。
 車を降りると、今まで遮られていた太陽光線が容赦なく降り注ぎ、思わず目を顰める。

 眩しさを軽減させるために片手を額に持っていき、目の部分だけ影を作った。

「……先輩達は?」
「先に着いてるよ」

 小さいながらも立派な造りの建物の中に入ると、リビングで先輩三人組が優雅に紅茶を嗜んでいた。机の上には無数のお菓子。

 場所は違えどやってることはいつもと何ら変わりない。

「あ! 来たーおっはよー!」
「おはようございます、もう昼ですけど。お腹空きました」

 自分の言いたい事を一気に言ってお腹を摩った。

「えー、さっきは空いてないって言ったじゃん」
「さっきと今を一緒にするな」
「うわーリンリン無駄に男前!」
「無駄……?」

 特に男っぽくと意識したつもりはなかったが、どうして自分が男前だと無駄なのかと頭を捻る。

「馨の言う事いちいち気にしてたら疲れるぞ」

 適当に流しとけ、と俐音にとってはありがたいアドバイスを出した小暮は、むくれる緒方に笑いながら席を立った。

 そのままキッチンに向かう背中をしばらく見て、彼の行動の意味を悟った俐音も慌てて後を追う。

「手伝います」
「じゃあこれ持って行ってくれ」

 俐音は小暮が何も言わずに昼食の準備に取り掛かろうとしているのだと思って、料理を手伝うと言ったのだが、小暮が冷蔵庫の中から取り出したものは既に出来上がったものだった。

「え、あれ?」
「鬼頭達が来る前に作っておいた」
「うわ、すみません! しかもこんなにいっぱい……」

 冷蔵庫を覗き込めば、まだまだいくつも料理が並んでいる。
 これを三人で作ったのか、小暮一人でやったのかは分からないが、俐音達が高級車の中で寝こけている間に用意してくれていたのかと思うと申し訳なくなった。

「いつもは穂鷹に任せっきりだからたまにはな」

 俐音に渡した倍の量の料理を運びながら、気にしなくて良いと笑う小暮。
 余り前に出る事のない小暮だが、こうやって気を配ってくれる態度に俐音は安堵を覚える。

 まとまりの無いこのメンバーが、どういうわけか大抵一緒に行動出来ているのは小暮がいてくれるお陰なのかもしれない。

「ていうか……成田って料理できたの」
「得意なんだから!」
「想像つかない」
「じゃあ晩御飯はオレ作るから見ててよ」
「見てなきゃいけないのか?」

 自分から疑いを掛けてきたというのに、面倒だと言わんばかりの俐音の態度がまるで興味が無いようで成田は少なからずショックを受けた。

 結局下手でも上手くてもどっちでもいいのか。

「俐音ちゃんヒドい……」
「は? なんで」
「なんでって……オレの心を弄んでそんなに楽しいの!?」
「意味分かんない事言うな!」

 机に料理を並べながら嘆く成田と喚く俐音を全員が見て見ぬふりをしていたが、福原が俐音の腕を引っ張って自分の隣のイスに座らせて頭を撫でた。

 その突然で脈絡のない行動に俐音は呆気に取られて笑顔の福原をまじまじと見つめた。

「鬼頭は疑ってないよね。穂鷹が料理してる所想像出来ないけど、別に得意だっていうのを疑ってるわけじゃないんだよね」
「ああ、あぁはい」

 福原の言う通りで、別に成田が料理が下手なんじゃないかと思っているわけではない。
 だから、成田が何故酷いと言ってくるのか解っていなかったのだ。

 それを知った成田は箸を両手で握り締め、目を輝かせながら俐音を見た。

「俐音ちゃん……!」
「だから何なんだよ、さっきから気持ち悪いなっ!」

 ころころと表情を変える成田をキッと睨みながら、小皿に取り分けた料理を口に入れる。
想像通り美味しかった。




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