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 玄関を開けるとそこは知らない世界だった。
 
 ということはなかったのだが、一般住宅の前に全くそぐわない大きな外車がどどんと構えていた。

 三人が車の前まで行くと運転手が降りてきてわざわざドアを開けてくれた。
 その運転手は無駄に筋肉隆々としたダンディズム溢れる壮年男性で、スーツが少し苦しそうに見える。

 車の運転にその筋肉必要ないだろ。運転席狭んじゃないか? そのガタイ。

 言葉に出す勇気はどうしても持てず、心の中で大いにツッコみながら後部座席に乗り込んで俐音は言葉を無くした。


 普段の生活で俐音が車に乗る機会はない。
 菊は車を持っていないし、学校もスーパーも歩いて行ける距離にあるから必要性も感じなかった。

 ここに来る前も、車に乗った回数などたかが知れている。
 それでも、記憶を掘り返してみて、この車は違うと、自分の知っている車との違いに愕然とした。

 無遠慮に下敷きにしている座席のシートに使われている革は触っただけで高級だと判るし、座席も随分と広い。

「……忘れてたよ……。お前等が金持ちだってこと」
「は?」
「何でもない」

 普段からこんなものに乗っているのかと思うと無性に悔しい。
 だがそれを口にするのも虚しくて、そっぽを向いた。

「お腹空いてない?」
「ない」
「えー、ちゃんと食べないとダメだよ」
「朝は食べないんだ」
「そんなだから、ちんまこいんだよ」

 頭をグリグリ回してくる成田の手を叩き落とし、「うるさいな……」と言って睨み、窓に寄りかかった。

「寝るから着いたら起こして……」

 目を閉じて幾らもしないうちに、くたりと体の力を抜き規則的に肩を上下させて完全に眠りについた俐音を暫く眺めていた成田は、前を向きなおした。

「警戒心が強いんだか何なんだか」
「諦めが早いんだろ」
「ああなるほど」

 確かに、いつ何をするにも最初は嫌だと突っぱねていても、結局折れるのは俐音が先だ。
 納得したというよりは、仕方がないといった具合にしぶしぶと付き合ってくれる。

 そして文句を言う割に、遊びも仕事もきっちりとこなすのもまた俐音なのだ。

「ねぇ、なんで俐音ちゃん旅行あんな嫌がってたんだと思う?」
「さぁメンドイからじゃねぇの」
「響じゃないんだからさ」

 面倒くさいは神奈の常套句のようなものだ。
 だが成田の言葉が気に食わなかったのかチッと舌打ちをして横を向いてしまった。
 どうやら神奈も寝てしまうらしい。

 普通、旅行の行き道くらいははしゃいだりするものではないだろうか。
 団結力や協調性など集団行動において必要なものを投げ捨ててしまったようなメンバーが、一緒にいてよくもケンカに発展しないものだといつも思う。

 両サイドが眠ってしまっては一人ぽつんと大人しくしているしかなく、成田は溜め息を吐いた。




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