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「ええ確かに先日承りマシた。だからちゃんと用意しておきマシたよ」

 よっこいしょ、と大きなバックを机の上に置いて「準備バッチリ」などと言う。
 バックを開けて中を確認すると、着替えは勿論ちゃんと旅行道具一式が揃っている。

「菊! また勝手に人の部屋入って漁ったのかよ!? いつか警察に訴えよう訴えようとは思ってたけど!」
「やむを得マセん……」

 患者が息を引き取った事を家族に告げる時の医者のような苦渋の表情で俯いて首を振る菊。

 何がだよ、使う場面間違ってるだろ!

 俐音は菊の胸倉を掴んで引き寄せた。

「ていうかさすがに旅行は行っちゃマズいだろっ。そこは保護者として拒否すべきだろ!」
「大丈夫、全く問題なしデス」
「根拠は!?」

 神奈と成田に聞こえないように声を抑えてヒソヒソと話していたのに、俐音はつい大声でツッコんでしまい、ヤバいと振り返ってみたら、二人は不思議そうにこちらを見ていた。

「あのーそろそろ出発する時間なんですが」

 成田が遠慮がちに小声で話す俐音と菊を覗きこむ。

「ハイハイ! じゃあ俐音を頼みマス」
「ちょっと菊、俺はまだ……」
「頼まれました!」

 成田は片手を挙げて敬礼し、もう片方の手で嫌がる俐音の腕を掴んで引っ張る。

「わっ、離せ!」

 成田とは逆側に腕を引いて尚も抵抗する俐音の背中を、今度は神奈が押した。
 そうなってしまうと、俐音一人の力でどうする事も出来ず、勝手に前に進んでしまう。

「神奈!?」
「遊びに行くだけだ、大人しくしとけ」
「行ってらっしゃーい!」
「いや、だから俺の事情も……、おい!」

 ギャーギャとー騒ぎながら二人によってスムーズに玄関から外に出されてしまった俐音を薄情にも菊は元気よく見送った。

 俐音は女である事がバレのではと心配していたが、菊としては早く事実を明らかにてもらいたい。

 今回の旅行に勝手に承諾したのは、春先から大丈夫だと言い続けてきたにも拘わらず、一向に言おうとしない俐音に対する強攻策だった。

 彼等が、俐音が女だという事を受け入れるのかは正直のところ賭けの部分が大きい。
 だけど、これから長い高校生活を乗り切っていくには彼等の手助けが必要だろう。
 それに、警戒心を解いて何の気兼ねもなく一緒にいられる友達は大切だ。

 扉の向こうでもまだ何か言っている彼女達の声が聞こえてきて、菊はクスリと笑った。




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