真実の鏡



 夏休み初日、いつもは俐音よりかなり遅れて起きてくる菊が、忙しなく「早く起きてくだサイ」と俐音の部屋のドアを叩く。

 もともと眠りの浅い俐音はすぐに目を覚ましたが、起き上がるのが面倒で無視を決め込むことにした。
 けれど、いつまでたっても菊の喧しいモーニングコールは止まない。

「俐音りおーん、いい加減にしないと入りますよー、覗きますよー!!」

 低血圧で朝はもうすぐ死ぬんじゃないかというほど目が虚ろで動きの鈍い菊が、こんなに騒がしいなんて何事かと数分経ってからやっとベッドの上に置いてある時計に目をやると時刻は七時。

 学校へは十分で着く位置にあるこの家だから、普段でさえまだ寝ている時間だ。

「なに、どうしたの……」

 寝癖、パジャマのままで部屋から出ると、ズイと服を押し付けられ「ほら、早く用意してくだサイ!」と言って菊はさっさと階段を降りていった。

「……あ?」

 見事なまでに説明を省かれて、訳の分からないまま着替える。
 皺の無い服は、俐音や菊が洗濯をしてアイロンをかけたからではなく、新しく買ってきたものだからだ。

 たまにこうやって手渡されたり、クローゼットの中に見たことのない服が入っていてる。

 ありがたいから着ているが菊が買ってきているのか、どうやって調達しているのか俐音には謎だったりする。
 俐音が学校へ行っている間に部屋に堂々と不法侵入しているとい事も、今の所は不問に処している。

「おっはよ、俐音ちゃん!」
「は? 何でお前ら……」

 支度が出来て一階に行くと、あたかも自分の家にいるかのようにリラックスしてキッチンのイスに座っている成田と神奈。

「彼らはわざわざ俐音を迎えに来てくれたんデスよ」
「迎え……?」
「そ。今日からみんなで避暑に行くんだよ」
「避暑? そんな話聞いてないけど」
「うん言ってない。でもちゃんと菊さんの了解はもらってるよ」

 成田の言葉に俐音はバッと菊の方を向く。
 菊は鬼気迫る俐音の視線をものともせず、微笑んでみせた。



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