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 玄関まで行くと、カバンを持った成田があんぐりと口を開けて突っ立っていた。

「成田まだ帰ってなかったの」
「え? うん。今帰ろう、と」

 三者面談は出席番号順に何日かに分けて行われるから、成田はまだ先だ。

「あら穂鷹お友達?」

 よく通る凛とした声がして、そっちに目をやると声のイメージそのままにスラッと背の高い女の人が高いピンヒールをカツリと鳴らして成田の隣に立つ。

 明るく染められた髪は短く、露わになっている耳からは大きなピアスが揺れている。

 しっかりとメイクが施された顔に、サングラスをかける様子を俐音がまじまじと見ているとニコリと笑顔を向けられた。

 随分と派手な格好をしているのだろうが、どちらかというと垢抜けているという言葉がぴったりと当てはまるのは、成田に良く似た綺麗な顔立ちのせいだろう。

「はじめまして、穂鷹の母親です」
「あ、はじめまして。鬼頭です」

 チラッと隣を見ると、忽然と菊の姿が消えていた。
 逃げたな……あの馬鹿、内心でそう毒づきながら会釈をする。

「ちょっと穂鷹。お友達にこんな可愛い子がいるなら早く言いなさいよ。色々着せて遊びたいのに」
「母さん……俐音ちゃんは男の子だよ?」
「分かってるわよ。でもちょっとくらいいいじゃないね? 俐音ちゃん」
「へ? いや、何のことだか……」

 二人の会話についていけない俐音は、さっさとこの場から退散してしまった菊に心底腹が立った。
「俐音ちゃん今度お店に遊びに来てちょうだいね」
「あ、はあ……」
「じゃあ私車回すから先行くわよ」
「は−い」

 高いヒールで危なげなく歩いて行ってしまった成田の母親を呆然と眺めながら、あの人は成田の母親なんだなぁと妙な感想が頭を過ぎる。

 顔が似ている事もそうだが、何の疑問も抱かず、男の子にちゃんを付けるところなんてそっくりだと思う。

「いやぁ、物凄くお綺麗なお母様デスねぇ」
「おい菊! お前……」
「過去は気にしちゃいけまセーン」

 今までどこに隠れていたのか、また突然に出てきた菊は傘をバトンのように回転させながらふざける。

 それを見た成田が手で口元を押さえて笑いを堪えているが、肩が震えてしまっていて全然隠しきれていない。

「俐音ちゃんさっきその日傘差してたね……」
「俺じゃない! 菊だ!!」
「いやだ俐音ったら、恥ずかしがる事じゃありまセンよ?」
「そう、だよ、俐音ちゃん。全然……うん! 似合って」
「だから俺じゃないって、あーもう笑いを噛み締めるな!」

 ムキになる反応が可笑しくて二人は揶揄うのだが、それに気づかず俐音はいちいち噛み付く。

 一頻り笑ったところで、玄関の外に停まった車がクラクションを鳴らした。
 中から成田の母親が手を振っている。

「じゃあね、俐音ちゃん。失礼します」

 菊に礼儀正しくお辞儀をした成田に、ああコイツもやっぱり育ちがいいんだな、と思わされた。
 いつもふざけてばかりだけど、きちんとすべき所はわきまえている。

 それを意外に思うのは、普段とのギャップと、彼の派手な見た目のせいだろう。

 母親と同じように、オレンジに近い色に染められた髪は逆に肩を越すほどに長い。両耳には赤と黄の鮮やかなピアスが輝いている。

 表情が柔らかいから怖いという印象は受けないが、これで礼儀作法は身についていると言われても普通は嘘だと思う。



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