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「ええぇー、あっこから見えるってどんな視力してんの!? そのメガネどこ製? あ、でもさ。見間違いで誰もいなかったらかなりショックだよねぇ。オレたちいてよかったねー」

 教室に戻るため、歩きながら一人でとうとうと喋り続ける成田の姿を見て俐音は思ったことをさらっと口にだした。

「お前ってカッコいいけど、バカっぽいな」

 俐音が発した言葉を聞いた途端、一歩後ろを歩いていた響が噴出した。

「はっ。コイツはバカっぽいんじゃなくて、バカなんだよ」
「ちょっ響!? わざわざそこ訂正しなくていい所だから!」
「……バカだってことを否定しないのか?」
「あぁっ、しまった!」
「バカめ」

 そんな成田を嘲る神奈。
 というようなやりとりを何度か繰り返したところで教室に着いた。

 三人とも同じ教室の前で立ち止まる。
 
 神奈と成田が意味ありげに目配せしたのに俐音は気づかない。

「お前も同じクラスだったんだな」
「みたいだな。二人とも朝いなかったから気が付かなかった」

 神奈が感情もなくそう言えば俐音も同じく無表情で返す。

「それ嫌味か?」
「別に、事実を言っただけ」

 二人とも抑揚のない淡々とした口調で会話をしているのが逆に今にもケンカを始めそうな雰囲気に感じる。

「まーま、ケンカはヤメヤメ。特進科は人数少ないからクラス替えとかないし、これから三年間クラスメイトなんだから仲良くやろうよ?」
「アホか。ガキじゃあるまいし、ケンカなんざするかよ」
「全くだ。ただ話してただけだろ」

 二人の間に入って仲を取り持とうとしたら、二人から小バカにされた成田は、この二人は似た者同士かもしれない……と思った。

「テメー等いつまでくっちゃべってるつもりだ。はよ座りやがれ」

 声がしたのと同時にずっと教室の入り口に立っていた三人に向かって黒い物体が勢いよく飛んでくる。

 俐音はヒョイと難なく避けてから、壁に激突して地に落ちた物体を見ると、それは無残ひしゃげたペンケースだった。

「チッ、避けたか。可愛げのねぇ……」

 ペンケースを投げ、尚且つ悪態をついたのはスーツを着た二十代後半の男。つまりは担任だった。

「さっさと帰りたいなら大人しく席に着け。ったく堂々と初日からサボりとは、やってくれんな。外部生」
「……なんで俺だけ?」

 名指しで咎められた俐音は、眼鏡の奥の目を細めた。

 そもそもサボっていたのは成田と神奈であって、俐音は呼び戻しに行ったようなものだ。
 褒められこそすれ、怒られる事ではないはずだ。



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