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「ここにもいたよ余裕人間。響はホント何もしないよねぇ。何で結果がついてくるのかオレはそっちのが不思議だ」
「え、神奈って勉強できんの?」
「できなかったら特進科に入れるかよ」

 バカにするな、と額を軽く押されて俐音は疑わしげに神奈を見やった。

 確かに神奈の言う通りだが、あまり授業に出ていないし、真面目に勉強に打ち込んでいるとも思えない彼の成績がいいとは考えられない。

「絶対嘘だ。頭の回転が早い奴が勉強もできるとは限らない」
「俺に関しては勉強もかなり出来るんだよ」
「自分で言っちゃってるし」

 成田は中学時代の神奈の成績を知っているから苦笑を漏らすしかないが、常にやる気の無い態度しか見たことのない俐音は納得がいくはずもなく。

「見栄張っても後で虚しくなるだけだよ神奈」
「誰がそんなもん張るか。結果発表見りゃ判る」

 自分は見る前から判っているような態度に俐音は釈然としていなかった。
 それなのに、見にきたら本当に神奈の言った通りの結果で、全然面白くない。


「絶対嘘だと思ってたのに……」
「それはお前、俺に対して失礼だろ」

 神奈は必死で勉強していた他の奴等に失礼だと俐音は思ったが口にしてもむなしいだけだ。

「あ、ほーちゃん達も見に来てたんだ?」

 いつも通りニコニコと上機嫌な緒方が、器用に人の波に流れながら近づいてくる。

「リンリン見たよ! すごいじゃん、名前載ってるの」
「あー載ってたんですか」

 神奈の名前を確認しただけで力尽きてしまって、それ以下は何も見ていなかった。
 特に自分の順位を気にしているわけではないので、探そうとも思わなかったらしい。

「おめでとう、十一位」

「じゅういち……中途半端な……まあいいか。緒方先輩は?」
「僕? 僕はこんなところに名前なんて出ないよ! 無理無理!」
「えぇ? そうなんですか? でも福原先輩に教えてもらってましたよね」

 まもなくテスト週間に入ろうとしていた頃、特別棟で、緒方と福原がテーブルに教科書を広げて勉強会をしていた。

 細かく言うと、勉強ではなくテストの山を教えてもらっていたのだけれど。

「福原先輩の予想って百発九十八中、なんでしょ」

 教科書にマーカーで次々と印を入れていくという光景を、俐音が不思議そうに眺めていると緒方がそう教えてくれたのだ。

 教えられたところを丸暗記していれば、九十点は軽く取れるはず。
 そうなれば学年上位に食い込んでくるだろう。

「だってあんまり上すぎて教師に目付けられたら大変じゃない」

 ニッコリ笑う緒方のオーラが黒いものに俐音は感じられた。

「どの問題を間違えて点数を調整するかでいっつも時間とるんだよねぇ」

 この人はホント生き方上手いよなぁ。

 きっとヒラヒラと人混みをかわすように要領よく世の中を渡っていくんだろうと俐音は変なところで感心させられたのだった。




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