母親と父親と



 七月に入ってすぐに行われた試験の結果発表日。
 掲示板の前に続々と人が集まっていた。

 各学年の上位二十名の名前が張り出されているのだ。

 自分の名前があるのか探す生徒もいれば、誰の名前があるのかと興味本位で眺めているだけの生徒もいる。ほとんどが後者だ。

 俐音達もその中に混ざって掲示板を見上げていた。

「俐音ちゃん見える?」
「馬鹿にするな。……見えない事もない」

 女の子にしては決して低い方ではない俐音の身長も、男の子の集団に入ってしまうとやはり随分と小さい。

 前に立つ生徒達が壁となってほとんど見る事が出来ないでいた。
 隣にいる成田の腕を掴みながら背伸びをしてどうにか、というところだ。

 自分に掴まって安定を取りながら意地を張る俐音はまるで何でも自分でやりたがる子どものようで「そっか」と笑ってそのままにしておいた。

「げっマジで……?」

 やっと順位表を確認した俐音は、苦々しげに顔を歪めた。

「だから言っただろうが。俺は賢いって」

 隣で勝ち誇ったようにニヤリと笑った神奈がこの上なく嫌味に見えた。

 一年生の列のトップに印字されてある「神奈 響」の名前をもう一度見てから、信じられないと成田に視線を送る。

「世の中不公平だよね」
「ていうかありえない……」

 俐音は爪先立ちをやめて、疲れたのか穂鷹の腕に頭を預けて俯いた。
 ぎゅうぎゅうと押し合う混雑具合に嫌気が差したのかもしれない。

 普段なら「どうでもいい」と言い出しそうな俐音や神奈がわざわざこんな人混みに入ってまで順位を見に来たのにはわけがある。

 それは試験が全て終了した時にこの三人がした会話が発端だった。


「終わったぁ……やっと勉強から解放された! 俐音ちゃんどうだった?」
「別に」

 テスト終了がかなり嬉しいらしく、無駄にはしゃぐ成田とは対照的に俐音は大した感慨もない。

 机に肘をついた上に顎を乗せ、しれっと言ってのけた。

「うっわ余裕……。周り見てみ?」

 それまで全く気にしていなかったが、見回してみるとクラスの大半が机に突っ伏して屍のように動かない。

 彩も例外に漏れず虚ろな瞳をしてボーっと黒板を眺めていた。

 コイツら何か毒でも盛られたんじゃないだろうな……。
 そんな穏やかでない考えが浮かんでしまうほど、みんな疲れ果てていた。

「どうやったらあんな事になんのか毎回不思議だな」

 俐音の前の席の神奈がイスに横向きに座って、窓に凭れ掛かりクラス中を眺めながら呟いた。



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