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「つっかれたー、何か飲み物!!」

 成田が床に散らばった機械の破片を回収していると、ジャージを着た緒方と小暮が入っていた。

 どうやらさっきの授業が体育で、教室に戻らずここに来たらしい。
 小暮は緒方に引っ張ってこられたに違いない。

「あっれ、ほーちゃん何その無残なケータイ。ちょっと貸して?」

 返事も聞かないまま成田から取り上げて、すたすたと窓まで歩く。

 全員が何だろうと見守っていると、緒方はニッコリと笑って開けた窓からそれを投げ捨ててしまった。

「あららー投身自殺」
「犯人馨だから! ていうか何でそんな事したの!?」
「理由があるなら警察いらないよ」
「いるよ! どっちも必要!!」

 緒方がこう言っている以上、本当に理由などないのだろう。

 理不尽にも粉々にされてしまった自分の電話機を上から覗いて、成田は溜め息をついた。

「もー二人のせいで女の子のメモリーが全部パァだよ」

 口を尖らせているものの、口調自体は軽く、それ程気にはしていないようだ。

「これくらいで切れる子達なら別に惜しくないだろう。それに相手のためにも皆のためにも良かったんじゃないか?」

 緒方の奇行に苦笑しながらも、小暮は良かったと思っている。

「そーだよ。校門の前で女の子の取っ組み合いに巻き込まれた時はホントほーちゃんを刺しても罪にならないと思ったよ」
「穂鷹は外見はいいから皆騙されちゃうんだね」

 緒方と福原は何故か笑顔で言いたい放題だ。
 今まで何も言わずに黙っていた分、溜まっていたものがあったのかもしれない。

「みんなちょっとはオレに気を使ってしゃべろうよ……?」
「まーまーいいじゃん。それよか食堂行って何か食べたい」
「アイスがいいです」

 すでに成田との会話を打ち切って俐音は立ち上がった。

 もう六時間目が始まっていて校舎も外も静まり返っている。

 別に集合をかけたわけでもないのに、こうやって全員が同じタイミングで授業をサボるなんて不思議なものだ。

「鬼頭」

 福原にトントンと肩を叩かれて振り向いた。
 すると直ぐ後ろにニコニコと笑う福原が。

「みんな一緒だね」

 小さな声でボソッと言われて俐音は、前を歩く他のみんなを見渡した。
 それからもう一度、福原を見る。

「ね?」
「あぁそうですね。……先輩、ありがとうございます」
「うん」

 手を置いていた俐音の肩がスルリと離れて行った。
 手は力なく下へと落ちる。
 早足で前へ進む俐音の背中を見る福原はもう笑っていない。

 だらけた歩調で歩く成田と神奈の腕を思い切り後ろに引っ張った。
 その拍子に体勢が崩れた二人は非難がましく振り返る。

「昨日は付き合ってくれてありがと。あと今も……様子見に来てくれたんだろ?」

 違ってたら恥ずかしいけど。
 窺うように見上げれば、二人は目を大きく開けてあんぐりとしていた。

「な、何……」
「まさか俐音ちゃんにありがとうって言われるとは思わなかったからさぁ」
「俺だってお礼くらいする……」

 頭を撫でてくる成田の手を払い、顔を背けた。

「悩んでたみたいだったけど、もういいのか?」
「うん。大丈夫」

 まだ完全ではないけれど。

 俐音はもう一度、二人の腕を掴んでごくごく小さく笑った。




end



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