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「……なんだそれ」

 午後の授業が始まっても俐音が戻ってこず、どうせ特別棟にいるんだろうとは思ったが、今まで滅多にサボったりしなかったのに最近はポツポツと授業を抜け出す事もあったから神奈と成田は疑問を持って様子を見に来た。

 そして部屋のドアをカードキーで開けると同時に目に入ってきた状況に呆気にとられて立ち尽くした。

「手懐けた……?」

 福原は自分の膝の上気持ちよさそうに眠る俐音の頭を撫でながら首を捻る。

「知らん、俺に訊くな」
「ちょっと響早く部屋入って……て珍しい。俐音ちゃん寝てる?」

 入り口に立った神奈の後ろから成田が顔を出す。
 足音を立てないよう静かにソファまで行って寝顔をまじまじと眺めた。

「ほんっと女の子みたいだよねぇ。喋らなければ」

 俐音は普段、あまり感情を表に出さない。
 こちらがふざけてみせれば反応は返ってくるが、ほとんどの場合が怒った時だけだ。

 眉をキュッと寄せて不機嫌を顕に睨みつけてくる事はあっても、屈託無く笑った所を成田は目にした事がない。

 だから、こうやって無防備にもさらけ出された寝顔はあどけなさも相俟って女っぽさを強調させた。

「あ、そだ。せっかくだから写メ撮っとこ」

 ポケットから携帯電話を取り出して、それを寝ている俐音に向けて一度シャッターをきった。

 カシャリと機械音がすると同時に、下から素早く手が伸びてきてケータイをあっさりと奪われギョッと目を剥く。

「成田ぁ、これなに?」

 完全に頭が覚めていないのか俐音は少し間延びした口調で問い掛けた。

 その手にはしっかりと成田の携帯電話が握られており、団扇のように左右に振っている。

「えっとあの、貴重な俐音ちゃんの寝顔撮っちゃったーなんてぇ」
「ふぅん」

 バカ正直な答えに俐音は無表情のまま返事をし

 ――バキッ

 携帯電話を真っ二つにへし折り、床に捨てた。

「ギャー! オレのケータイィ!!」
「盗撮は犯罪です」
「だからって破壊したりする!?」
「敵に情けはかけない主義なんだ」
「オレ敵だったの!?」

 容赦ない俐音の攻撃はこれに止まらない。
 起き上がって下ろした足で二つに分かれた元電話機を踏みつけた。

 もちろんわざとだ。

「踏んでる!ケ ータイ踏んでる!!」
「あーもう壊れてるからいいだろ」
「壊したの俐音ちゃんでしょうが! もう、手厚く供養してあげなきゃ」
「どんだけ愛用してたんだよ」

 全くだ、と神奈のツッコミに俐音は大きく頷く。



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