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 昼休みに俐音が特別棟に行くと、すでに福原がいた。
 部屋に入って来た俐音に「何か飲む?」と笑顔で訊いて自分が持っていたカップを見せる。

「んーいえ……」

 ソファに座っていた福原の隣にドサリと倒れ込むように俐音は腰を下ろした。

「疲れた? 寝る?」
「そう、します」

 メガネを外して目を擦る俐音に「うん」と頷いた福原は、持っていたカップをテーブルに置いてポンポンと自分の足を叩いた。

「え、なんですか?」

 どうしたんだろうと、閉じかかる目で福原を見ると、ニコニコと笑っているだけだ。
 その間もずっと膝の辺りを軽く叩き続けている。
 
「先輩?」
「寝るんでしょ? だから膝枕」
「……だから、と言われましたか? 今、それがまるで当然のように」
「うん、枕だよ」

 なんだか微妙に会話が成立しない。
 俐音の言葉は聞いているはずなのに、返答がずれ過ぎている。

 いつもなら食い下がる所だが、眠気が頂点まで来てしまっているためこれ以上反論する気になれない。

「それ強制ですか」
「うん」
「分かりました……」

 躊躇いがないわけじゃないが、福原の膝に頭を預けて目を閉じた。

 サラサラと手で髪を撫でられ、それがなんだか安心できて吸い込まれるように意識が沈んでいく。





 施設から出られたらっていういつかの話をいっぱいした。

 外がどんなものかの記憶もあやふやになるほど、あそこでの毎日がずっと続きすぎていて出られる日なんて本当に来るのかと思ってた。

 テレビの画面越しに見る光景への憧れ。無いものねだり。
 でも私はみんな一緒がいい。良かった。
 そうじゃなきゃ意味ないんだ。

 一人に戻るくらいなら……

「鬼頭、鬼頭」
「……んー福、原先輩……?」

 体を揺すられて俐音は少しだけ上を向いた。
 一瞬、ここがどこで、自分を覗き込んでいる人が誰か判らなかった。

 理解した途端に心に押し寄せてきたのは喪失感。
 ここに彼等はいないと思うと、別れてからもう随分と経つのに涙が溢れてくる。

「嫌な夢見た?」

 閉じた瞼の隙間から零れ出た涙を掬い取って、福原は優しく俐音の頭を撫でる。
 嫌じゃない。むしろ夢が続いて欲しかった。

「……夢がいい、起きたらみんないないから」
「そっか。今鬼頭は一人なんだ」

 まだ夢と現実の間にいるのか、虚ろな瞳でぼんやりとしたままコクリと頷いた。

「じゃあ俺がいてあげる」
「……先輩が?」
「うん。いるよ」

 どうして? と探るように見てきた俐音に、福原は微笑んだだけで何も言わない。
 それでも俐音は納得したのか、ただ眠たさが勝っただけなのか、再び目を閉じた。




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