▼page.10 あのまま、駒井は放課後になっても戻って来なかった。 カバンは机の脇にかかっているから、取りに来るだろうと俐音は暫く待っていたのだが、現れそうもない。 「もう帰ろうっか」 成田と神奈も俐音に付き合って残っていたが、これ以上は意味はなさそうだ。 「うん。俺……駒井を知らないうちにいっぱいいっぱい傷つけてのかな」 「自分の知らん所まで考えたって仕方ないだろ」 「そうだけど……」 それでも、自分が気分を悪くさせてしまったのなら、その原因が何かハッキリとさせたい。 でないとまた同じ事を繰り返してしまう。 「駒井って変な時期に転校して来たから、家庭の事情があるんだろうなぁとは思ってたけどね。でもそういうの珍しくないし」 「変な時期?」 「んー、中三の冬くらい」 どうも記憶が曖昧だ。 成田は教室にいることも少ないし、駒井は自分から進んで話しかけるタイプじゃないから、今までほとんど話した覚えがない。 「あ、でも転校してきた日、すっごい警戒してるっていうか怯えてたような……、なんか変な感じした」 「お前よく覚えてんな」 「響が周り見てなさすぎなの!」 その後も成田と神奈は言い合いを続けていたが、俐音は聞いていなかった。 成田の言う『変な感じ』というものを俐音も感じた事がある。 何か引っかかるような違和感。 駒井のカバンを教室に置きっぱなしにしておくのはさすがに危ないだろうと、教室の後ろにあるロッカーの中に入れる事にした。 一人一スペースずつ使う事になっていて、出席番号と名前のプレートが貼られている。 「駒井 彩……女の子みたいな名前」 半年前にここに来て、親はいない。 周囲に怯えていた。 たまに俐音に何かを言いたそうにしていたけど、口にはしなかった。 女の子のような名前。 もしかしたら、そうなのかもしれない。 まさかそんな、とも思うがここは他ならぬ水無瀬なのだ。有り得ない話じゃない。 とりあえず、菊に相談してみよう。 前 | 次 戻 |