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 少年は教室のある棟とは別の建物に入り、階段を上っていった。
 どんどんと上へと足を進め、行き着いた先、目の前にあるのは屋上へと通じる扉。

 『立ち入り禁止』という張り紙がしてあるにも拘らず、何の躊躇いもなくドアノブをまわす。

 すると扉は呆気なく動き少年を屋上へと招きいれた。

 外に出てみると、小さくだがボソボソと人の話し声が聞こえてくる。
 少年は声がするほうへ近づいていき、壁に凭れ掛かって胡坐を掻いている生徒二名を発見した。

「サボリか」
「あ……?」
「……あれ、バレちゃった」

 一人は突然現れ声を掛けてきた少年を目を細めて睨み付けるように見上げ、もう一人はヘラっと笑った。

「もう式終わったけど?」
「え? マジで? じゃあ、早く教室戻らないと」

 とは言いながら、別段急ぐ様子もなく、手に持っていたタバコを「証拠隠滅!」と笑いながら携帯灰皿に入れてゆっくりと立ち上がった。

「お前、それ言うためにわざわざここまで来たのかよ?」

 気怠るそうに立ち上がりながらもう一人が訊ねてきた。

「うん。堂々とサボってタバコふかしてる奴がどんなのか見てみたくて。思いのほかカッコよかったから驚いた」

 特に感情を込めず、表情も一切変えずに少年は話す。
 本当に驚いたのかと言いたくなるほどだ。

「そりゃどうも。キミって外部生だよねぇ? 名前なんてーの? あ、オレは成田 穂鷹(なりた ほだか)でこっちの仏頂面は神奈 響(かんな ひびき)」

 外部生。高校から入学してきた少数の生徒のことだ。

「鬼頭 俐音(きとう りおん)」

 俐音は身長は男子高校生にしては小柄で、顔も少し大きめな眼鏡と前髪で隠れているけれど、よく言って中性的。正直言ってしまえば女顔である。

 それに対してよく喋る成田も、いきなり人を睨みつけてくる神奈も、黙って立っていればタイプは違えどお世辞抜きにカッコいいというのが俐音の二人の外見に対する感想だ。

 まじまじと観察していたから、自分が名前を言ったときに二人が顔を見合わせたのにも気づいたけれど、取り立てては何も言わない。

「俐音ちゃんね。てか、どこから見えたわけ? 壁に隠れてたのにさ」

 成田はまたヘラリと笑って言った。
 俐音は成田の言葉に少しだけ目を見開いたけれど、それは一瞬のことですぐに表情をなくす。

「中庭通ってるとき、タバコの煙が見えた……気がした」

 実際見えたのだが、普通人間の目で確認できる距離ではないことは分かっているので、最後にそう付け足した。



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