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 放課後、俐音が特別棟に行くといたのは福原一人だけだった。
 福原はホワイトボードの前に立って何かを描いていた。

「絵描いてるんですか?先輩って芸術科なんですよね」

 福原の隣へと歩き、ホワイトボードに目をやる。

「……あれ? どれを描いて……?」

 ホワイトボードにびっしり描かれているのは初めてこの部屋に入った時と同じような、火星人ともゾウリムシとも見えなくはない物たちが織り成す摩訶不思議絵図。

「全部だよ」
「え、えぇっ? これ福原先輩が!?」

 俐音はてっきり緒方の仕業だと思っていた。

 目を細めてニッコリと笑いかけてくれてるが、本当にに芸術科なのか疑ってしまう。

「これが馨でこっちが聡史」
「……に、人間!?」

 指差された緒方は真っ黒に塗りつぶされてしまっている。
 その隣の小暮は辛うじて眼鏡が判別できるというよく分からない物体だ。

「こ、これは……?」

 隅っこで、ちまっとしている黄色いひよこのような、マリモもどきを指差して、恐る恐る尋ねてみる。

「それは穂鷹」
「成田……!? なんかガタガタ震えてますけどコレ!」
「その横が響だよ」
「デカ! 神奈大き過ぎないですか!?」

 ホワイトボードにはみ出すくらいの巨人だ。
 ……じゃあ、もしかしなくても、青と白のグラデーションゾウリムシは――

「鬼頭だよ」

 ちらりと残った一体を横目で見たのと同時に福原が答えた。

 私って顕微鏡じゃなきゃ見れない程小さいイメージかよ!と自分よりも目線が上の福原を睨もうとしたが、それよりも一つ気になる事がある。

「今俺の心の中読みませんでした!?」
「ん? これは俺から見た皆なんだ」

 あっさりと俐音の質問を流す。
 ニッコリと笑ってはいるが、もう一度聞ける雰囲気ではない。

「……福原先輩が入ってません。皆いなきゃ変ですよ?」

 俐音が言うと、福原は「そうだね」と小さく呟いた。
 そして黒のペンのキャップを外して円を描く。

「俺ってどんなのなのかな…。自分じゃよく分かんない」
「先輩は瞳が印象的なんですよね」

 福原から黒のペンを取って円の中に小さな丸をグリグリと二つ描く。

「これで皆揃った。完成ですね」
「うん。ねぇ鬼頭は悲しそうだけど……青と白が広がってる景色は綺麗だと思うよ」

 俐音はハッとして福原を見る。

「みんな今日は来ないと思うから帰ろっか」

 福原はいつも通り笑いかけてきた。

 この人はどこまで知っているんだろう……。

 相手をそのまま映し出す鏡ような瞳で、一体何を見て何を思うのだろう。

 以前緒方が七不思議がどうのと騒いでいたが、この学園の一番の不思議はきっとこの人の存在だ。

 俐音は一人そう確信した。




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