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「鬼頭のせいで昨日は散々だったんだぞ!!」

 昼ご飯を食べ終わって俐音が教室に戻ってきた途端、浴びせられた罵声。
 隣にいる神奈は、しれっと横を向いており会話に参加するつもりはないようだ。

「何、いきなり」
「増田が鬼頭達が休んだからとか言って、何でか数学の授業中ずっと俺が当てられたんだよ!」
「文句なら担任に言えよ……」

 怒るクラスメイトに俐音は呆れながら応えた。

 言えるはずもないだろうけど。
 そんな事をしたらもっと仕打ちがひどくなるだけだ。

「もう絶対に鬼頭で一発稼がせてもらうからな! 絶対明日の数学の授業出ろよ!」

 パンパンと俐音の肩を叩いて行ってしまった。

「意味分からん……」
「ほっとけ」

 面白くもなさそうに神奈は自分の席につき、ポカンとする俐音にいつの間にか近くにきていた駒井が声をかけた。

「おはよう! 鬼頭くん」

 もう昼だけど俐音も「おはよう」と返す。

「なぁあれ何だったんだ?」
「明日になれば分かるよ」

 駒井はニコッと笑うだけで教えてはくれなかった。

「鬼頭くん達この間お花見してたね」

「え!? 何で知って……」
「僕ずっと鬼頭くんのこと見てたんだよ」

 じっと見てくる駒井から眼が離せなかった。

「……て、そんな事言ったらストーカーみたいだよね。実は寮の窓から見えたんだ」
「駒井は寮生なんだな」
「うん。あの桜は寮のすぐ裏だからね」
「マズいな……他にも見られてたら」

 誰が混ぜたか分からないお酒のせいで、途中から異様なテンションになった成田・緒方・小暮の三人を押さえて、教師に見つからないように連れて帰るのにどれだけ苦労したことか。

 福原は面白がって酔ったフリして絡んでくるし、神奈は傍観決め込んでるしで、ほとんど俐音一人でその場をまとめたのだ。

「大丈夫、僕以外見てないと思うよ。あそこは僕の部屋以外は見えないはずだから」
「そうなのか! 良かった」

 ホッと息をつく俐音に駒井はクスリと笑った。

「なんだか楽しそうだね」
「そうか……?」

 私はああいう状況を楽しんでいるのだろうか。
 俐音にはよく分からない。

 顔をしかめると駒井は真面目な顔をして

「そうだよ……」

 小さくそう言うと自分の席へと向かった。

 チャイムが鳴り自分も席についたが、さっきの駒井の表情にどこか引っ掛かるものを感じた。




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