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「おかえり」

 俐音達が特別棟に戻ると、ソファに座ったまま神奈がひらひらと手を振って迎えた。

「ただいまー……って! 全員で何寛いでるんだ。二時間前と全然変わってないじゃないか! 仕事しろよ!

「お前ら二人が心配で仕事が手につかなかったんだよ」
「せんべいを食べながら言うな!」
「まあまあ、そのくらいにしておきなよリンリン。後で僕が言っておくからさ」

 にっこり微笑む緒方のバックが異様に黒く見えた。
 それに一瞬たじろいだが、自分は関係ないと思えば逆に頼もしい。

「お願いします」

 俐音は軽くお辞儀をして、緒方に全てを委ねる事にした。

「というわけでぇ、みんなでお花見しよう!!」

 仕切りなおし、と言わんばかりに緒方が手を叩いて元気よく言った。

 みんなは唐突な提案にポカンとしている。

「花見と侵入してきた女との関係はあんのか?」
「あるよ! ありまくり。四の五の言わずに花見!!」





 有無も言わさず寮の裏までみんなを引っ張って行き、ビニールシートを敷いて飲み物やお菓子を置いていく。
「ホントに咲いてるし。何でだろ」

 実物を見るまでは半信半疑だった成田が、木の天辺までまじまじと眺めている。

「キレイだろ?」
「だね。今年はまだ花見やってなかったからちょうど良かったのかな」

 俐音が成田を下から覗き込むと、理由を考えるのをやめてヘラリと笑い、すっかりと準備の整ったビニールシートに上がる。

 誰が持ってきたのか、出されたトランプに熱中しだした一同から目を離し、俐音は桜を見上げた。
 桜の木の太い枝に座っていた綺麗な女性は、俐音と目が合うと満足そうに微笑んで消えていった。

 『誰か、この花を見てあげて。私はもう行かなけらばならない。今年が最後だから……』

 この桜はもう寿命。
 枯れてしまう前に、自分が長年見守り続けていた坐を誰かに愛でてもらいたかったのだろう。

「うわぁ、キレイ!」

 先ほどまで咲き誇っていた花弁が一斉に宙を舞う。
 散ってゆく。

「リンリン、髪に花びらついてるよ」
「おわ」
「ねえ、僕たちって神様の願い叶えちゃったんだよね?」
「そうですね、きっといい事たくさんありますよ」

 二人は小声で話した後、桜の木をもう一度見上げた。

 今年が最後と知り、力の限り咲き誇った花が今まで共に在った主を見送るように飛び散る。


 ひらひら

 ひらひら



end



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