そこは奇妙な処


 高層ビルの建ち並ぶ都心からは少し離れ、辺りを見回してみれば景色に多くの緑が混じっている。

 ここはそんな場所。


 そこにある水無瀬学園の門を今、一人の少年が潜り抜けようとしていた。

 この学園は日本を代表する富豪水無瀬家が、その有り余る財産の一部を使って道楽程度に建てた男子校だが、水無瀬の名の威力は凄まじく、各界の著名人の息子や様々な才能を持った者たちがこぞって集まり、気が付けば押しも押されぬエリート校になっていた、という所である。


 お金に糸目を付けずに建てられた学園はやたらと広く豪奢な造りをしている。

 だが少年は遥か上まで見上げるか、随分後ろに下がらなければ全体像が分からないような大きな門も、門から校舎までを結ぶ幅広い通路を挟んで見事にシンメトリーを形成している手入れの行き届いた庭も、水しぶきをあげている噴水にも、何の感慨も生み出さずに無表情のまま通りすぎる。

 今年に入ってから寒い日が続いたせいで例年よりも開花が遅くなった桜がようやく満開に咲き誇った今日は入学式。


 玄関に大きく貼り出された案内を頼りに教室へ行くと、すでに登校していた生徒達はみんな親しげに話をしていて、それにも興味がないように、自分の出席番号と名前が書かれた紙が置いてある席を探し当てて大人しく座った。


 ほとんどの生徒が中等部からの持ち越しで、少年のように高等部から入ってくるのは珍しい。

 周りから、あれは誰だろうという視線を受けていても気にせず、机に肘をついて手の甲に顔を乗せた状態のまま、ぼうっとしていた。

 そんな姿はまるで猫のようでもある。

 その後も誰とも話をしないまま、本日のメインイベントである長い式典も終わり、再び教室へと戻るためクラスメイトの後ろを歩いている途中、少年はふと視線を上へ向けた。

 かけている眼鏡を鬱陶しそうに少しだけ下にずらして、じっと一点を見つめ、少年はそのまま黙って列から外れていった。

 最後部を歩いていた少年が進行方向を変えたのを見ていたものは誰もいない。




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