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「うーんデマか……。じゃあやっぱ幽霊なんていないのかぁ」
「さぁ、それは知りませんけど」
「え……? リンリンって幽霊信じる人!?」

 『だ………げて……わた……い……。さい……か……』

 ピクッと俐音の肩が跳ねた。緒方の問いかけに答える様子もなく、キョロキョロと周りを見渡している。

 急にどうしたんだろうかと緒方は首を傾げるが、それも気にしていない。

 まるで、何かが聞こえたみたいだ。自分には何も聞こえなかったが、何かを探している風な俐音はそう見えた。

「リ、リンリン?」
「緒方先輩さっきの聞こえました?」
「え、僕はなにも……」

 そうですか、と言って外に向かって歩き出した俐音ついて行きながら緒方は薄ら寒いものを覚えた。
 俐音が冗談でやっているようには見えない。そんな事をする子じゃないと思う。

『だれ……み…………も……。……ごだ……ら』

「まただ……なんて言ってるんだろ」

 目を閉じて聞き取ろうとするも途切れがちで良くはわからない。

「どうしたの?」
「いえ、何でもないです」

 きっぱりと答えた俐音に困惑した。
 何でもないと言われても、今目の前で起こっている事を見れば納得できない。

「嘘だ! だってリンリンさっき……」
「緒方先輩が思ってるような事じゃないです」
「何だよそれ、言えない事なの!?」

 食い下がってくる緒方に肩を掴まれて俐音は顔をしかめた。

 確かに自分の言動から、何もないというのは不自然だろう。だけどそれと、このどこか切羽詰ったような緒方の表情とが結びつかない。

 ただ気になって訪ねてきているという雰囲気ではなかった。
 何か緒方にとって都合の悪い事でもあるんだろうか。

「緒方先輩、ほんとに俺のは……」

 言いかけて俐音は口を閉ざした。

 ふうわりと桜の花びらが一片舞っているのが目に入った。

「さくら……? あぁそっか」

 またもや自分を置いて、一人勝手に話を進める俐音に焦って掴んだ手で肩を揺すった。

「リンリン!」
「ねぇ先輩。散らない桜ってどこにあるんですか?」
「え? り、寮の裏手に……」

 真っ直ぐに尋ねてくる俐音の、いつもの冷めた空気の中に含まれた見た事のない鋭利さに僅かに気圧された。
 そうですか、と歩き出した俐音は緒方とは対照的にどこまでもマイペースだ。

 いつもは自分がはちゃめちゃな行動をとる緒方は、振り回されるという慣れないこの状況に困惑を隠せない。
 何が起こっているのか全く検討がつかないのにも原因はあるだろう。




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