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「先輩やる気満々ですね」

 雑用や、書類整理などはいつも「メンドイー」と言って動こうとしないが、こういう事件性のあるものになると緒方は決まって張り切る。

 理由は面白いからという至ってシンプルなものだ。

「さっき七不思議はもう一つあるって言ったじゃない。あれとさ、関係あると思うんだよね」
「それってどんな?」
「女の人の声がね、聞こえるんだって。悲しげな声がどこからともなく」
「女の人は何て言ってたんですか?」
「さぁ、そこまでは。でもね、聞こえるのはいつも寮の近くらしい」

 じゃあ、寮に向かって歩いているんだな。
 緒方に合わせて歩いていただけなので、俐音は目的地がどこかも分かっていなかったのだ。

「先輩ってやたらこういうのに詳しいんですね。何でですか?」

 しばらくの沈黙を経て、あれ? と思い緒方を見るとニッコリと笑った。

「何でって、大好きだからに決まってるじゃない」
「そうですか。決まってるんですか」

 さっきの間は何だったんだろう。しかも笑顔に迫力があって怖い。
 もしかして地雷でも踏んだかと思い返すがどれなのかも分からない。


 その後、俐音はずっと緒方の様子をビクビクと窺っていたのだが、何事もなく寮についた。
 中に入るとまず入り口に掛かってある絵が目に留まった。

「その絵気に入った?」
「さあ……よく分からないけど複雑な絵だなと思って」

 どこかの風景なのか、それとも全く関係ない何かなのか、沢山の色が織り交ざっていて綺麗というよりは雑多な感じがした。

「そうなの? 僕は芸術はさっぱりだけど、質問あるならイッチーに聞くといいよ。彼の描いた絵らしいから」
「えっ? イッチーって……福原先輩ですよね?」
「そだよ。知らない? イッチーは芸術科」
「し、知りませんでした……」

 それどころか芸術科があったことすら知らなかった。
 この学校には特進・普通・芸術・スポーツの四つの科に別れている。
 それぞれ微妙にカリキュラムが違うらしい。

 多分どこかでそういった説明はあったのだろうが、自分には関係の無い事だと俐音が聞いていなかっただけだ。
 実際、他のクラスを気にした事なんて一度もない。

 一通り寮の中を見て回ったが、女性の姿も見えなければ声も聞こえては来なかった。

「やっぱ何も無かったねぇ。僕一度も聞いた事ないもの」
「あ、緒方先輩は寮でしたっけ」
「そうよー。なのに女の人なんて見た事ない。ただのデマなのかな」
「俺はそう思います。だって目撃されたのって一日二日じゃないんでしょ? そんなずっとなんておかしいですよ」

 唯一つしかない校門には警備員がいて、許可がなければ生徒と教職員以外は中に入れない。
 隙をついたとしても、そう何度も侵入できないはずだ。



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