七不思議ひらひら



「七不思議?」
「そうなの! もうすぐ五月なのに一本の桜の木の花がね、散らないの」
「まぁ、不思議っちゃ不思議ですけど、いいんじゃないですか?綺麗だし」

 弁当をテーブルに置き、身を乗り出して力説する緒方。たまに飛んでくる米粒を器用に避けながら俐音は若干冷たく答えた。

 ゴールデンウィークも終わり、ちらほらとブレザーを着ていると暑く感じる日が出てき始めた。

 そんな中、この時期には不釣合いなひらひらと舞い散る桜の花びらは、安直にも怪奇現象や怪談に結び付けられてもおかしくはない。

 クラスでも同じような話を聞いたし、自分の常識では理解し難い出来事は興味を引かれやすいのだろうと、まだ熱心に説明している緒方を見ながら思った。

 そして緒方の話を半分聞き流しながら口に箸を運んでゆく。

「木の下に死体が隠されてるとか呪いがかけられてるのかな?」
「呪いねぇ……。万年桜なんじゃないですか」
「ちっがうよ! 去年は咲いてなかったもの!」
「へえ。……それで他には?」

 すでにその話題に一切の興味を無くしてしまった俐音は、他の不思議な話題に移ろうとした。
 だが緒方は「え?」と何の事は分かっていない。

「七不思議。まだあるでしょう」
「うんっ、あるよ! 一つ」
「一つ? 六つでしょ!? 七不思議なんだから!」
「リンリンわかってないなぁ。学校で一つでも変なことが起これば七不思議なの、これ常識!」
「あーそっすか……」

 チッチッチッと古いリアクションをする緒方に呆れた眼を向けるが一向に気付いた様子はない。
 だんだんとアホらしくなってきた。

「ところで、今度の仕事って何なんでしょうね」
「んー分かんないけど、この前みたいな下着ドロボウ捕まえるのとかは勘弁……」
「ああ……あれは最悪でしたね……」

 男が男の下着を嬉々として集める姿は、出来ればお目にかかりたくなかった。
 二人は思い出してしまい、げんなりと肩を落とした。


 そんな二人が弁当を食べ終わるのを見計らったように他のメンバーが部屋に入ってきた。

 ただ一人で緒方の話を延々と聞いていた俐音は辟易とし、最初に入ってきた成田に救いを求める目を向けた。
 それだけで大まかな流れを把握した成田は哀れみを含んだ苦い笑いを漏らすしかない。



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