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 神奈と俐音がラウンジに戻ってくるとすでにカフェは終わっていて、表に上がっている看板に「CLOSE」と書かれていた。

 既にクラスメイト達が片付けを始めている中、何故かテーブルについてケーキを食べている一グループがいた。

「リンリン、響おかえりー」
「緒方先輩……何で当たり前のようにここでまったりケーキ食ってんですか」
「だって僕これ取り置きしてたんだよ、もっと早く食べたかったんだけど忙しくってさー」
「ああ。じゃあ何で菊が一緒になって食べてんの。ていうか何で来てんだよ!」

 面識のないはずの緒方と菊が向かい合ってケーキを食べているという構図は異様だ。

 砂崩しのように真剣に外周からケーキを削っていた菊は、俐音を視界に留めるとニコリと笑った。

「見てくだサイ。最終的には立てたままこのイチゴの部分だけを残そうと思うのデスよ! すごくないデスか? 芸術的な仕上がりになりそうじゃないデスか?」
「質問を無視すんな」

 俐音がイチゴを人差し指で軽く突くと、既に細っていたケーキは呆気なく倒れた。

「あ……」

 しん、と一瞬辺りが静かになった。
 菊は瞬きもせずに、無残にも皿に横たわってしまったケーキと、分離して少し離れたところまで転がったイチゴを見詰めている。

「り…りおーーんっ! なんて事するんデスか、あなたって子は! 一寸の虫にも五分の魂と言って」
「虫で例えるなよ!」

 大人しく俐音達の会話を聞いていた緒方だったが、ここで堪えきれずに笑い出した。

「全っ然会話の意味分かんないんだけど!」
「会話なんてノリだけで成立しマスからね」
「そうですねー」

 にこやかにケーキを頬張る二人を見ていると俐音も食べたくなってきて、まだ残りがあるだろうかとカウンターの方に目をやる。

 緒方と菊を相手にするより、真面目に働いた方が楽だと判断したのだろう。

「にしてもリンリンそんな格好してバレないの?」
「バレないっていうか、ここの生徒だって思う人がいませんでしたね。それより、だから何で菊がここにいるの」
「そりゃあ俺が呼んだからに決まってんだろうが」

 今の今までどこにいたのか、増田がタバコを銜えたままテーブルまで来た。
 俐音は思い切り嫌な顔をして菊の後ろに回る。

 タバコの煙を避けるのと、ちょっかいを出されないようにという警戒心からだ。

「そろそろ一般公開は終わる時間だ」
「おや、では俐音の勇姿も見た事だし帰りマスか」
「勇姿ってこの格好のことか?」
「それも含めて色々デス」

 楽しそうに笑っているけれど、他に何を見られたのだろうか。



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