▼page.14 俯き加減の二人と、顔のどこに目があるのかも分からなくなるほどにサインペンで黒く塗りつぶされた二人を職員室に連れて行った。 その場に居合わせた教師達は何事かと寄ってきて、苦い顔をしたり唖然とした様子で小暮の説明を聞いていたが、俐音達の担任の増田だけは指を差して爆笑していた。 それから彼らがどうなったのかは知らない。 教師に引き渡したらもう用は済んだ。 どんな処分が待っているかは興味がなかった。 さっさと職員室を出ていく神奈達の後を追って俐音も小走りで続こうとして、ふと横へと目を向けた。 増田が涙を拭いながら部員の顔に落書きを追加していた。 陽が沈みかけていて、校舎が赤く染まっていた。 同じ建物でも時間が違えばこんなにも雰囲気が変わるのか。 俐音は朝よりも静かになった廊下を歩きながら、それを寂しいと感じた。 少し前を行くみんなは何事もないように賑やかに喋り合っている。 その中に入っていけるほど俐音とみんなとの関係は確立しておらず、またそれを振り払えるくらいの人付き合いのスキルを持ち合わせていない。 ふと一番前に居て後ろ向きに歩きながら笑う緒方を見た。 「緒方先輩これって愉しいですか?」 言い表し難い寂しさを振り払うように話しかけた。 「え、僕めちゃくちゃ愉しかったよ!?」 「あぁ、そうですね、この上なく愉しんでましたよね」 周りとは不釣合いな明るい声にホッと息を吐く。 「俐音ちゃんは? 愉しくなかったの?」 成田の問いに俐音は「んー」と目を瞑って思い返してみる。正直よく分からなかった。 殴られそうになったし、アダルトDVDの山は見ていて不快だった。 「退屈はしないだろ」 「……うん、そうだな」 退屈は俐音にとって敵。確かにこのメンバーと一緒にいたら、その心配はしなくて済みそうだ。 それに、みんなでふざけ合うのは悪くないと思う。 「これが愉しいって事なのかな……」 そう呟くと福原がポンポンと頭を軽く撫でてきた。福原の柔らかい笑みは俐音の考えを肯定しているように見えた。 まだ女だと打ち明けるかどうかの判断はつかないけれど、こうやって同じ歩調で歩いてくれるこのメンバーと一緒にいるのは悪くないと思えた。 end 前 | 次 戻 |