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 兄が気にしている子になら教えてもいいかと思ったが、本人に聞く気がないのに、それを押し切る理由は無い。
 神奈に遠慮をしているのだというのも解かる。

「俺、そろそろ帰るよ」
「もう?」
「うん、穂鷹にも会ったし」

 樹はまだ伸ばされている俐音の手を取って、たこ焼きを口に入れた。
 それから横を向いて、ちょうど帰ってきた神奈に意味有りげに笑う。

「今日帰ってきたら話聞かせてね」

 神奈の隣を通る時に小さな声で言い、樹は手を振って帰っていった。

「神奈と樹ってそっくりなのに中身は逆なんだな」
「アイツ、あれでかなり強かだぞ」
「そんな感じした」

 受け取ったウーロン茶を飲みながら、チラチラと神奈を見る。

「何だよ」
「ん? いや何でもない」

 そんなはずはない。物言いたげにしていたくせに、問い詰めても「別に」の一点張りで口を割ろうとはしなかった。

「樹に何か言われたのか」
「違わないけど、でも違う。樹のせいじゃない」
「俺に伝わる日本語で話せ」

 俐音の言っている事は無茶苦茶で、しかも言われた内容を知りたかったのに、そこには触れようとしない。
 神奈に関係している内容なのは明白なので、こんな中途半端な状態で置かれると気になる。

「お前なぁ、言いたくないなら初めから全部隠しとけ」
「そんな事言われたって……ていうか神奈のせいなんだからな!」

 樹に言われて気付いてしまったのだ。
 俐音は神奈の事を何も、家族構成さえ知らないと。

 神奈だけじゃない、穂鷹達だって同じだ。毎日飽きもせず一緒にいるけれど、本当にただいるだけなのだという事実に少なからずショックを受けた。

 『穂鷹達は知ってるよ』

 知らされていないのは俐音だけだという事も悔しかった。
 彼らには俐音と知り合う以前に共有していた三年間という時間がある。
 その差は、いきなりポンと中に入った俐音が疎外感を感じるほどに大きい。

 だけど、この気持ちをそのままぶつけられるほど素直にはなれなかった。

「神奈のせい。そういう事にしといて」
「はぁ?」

 俐音はそれ以上は何も言わず、ウーロン茶を飲み干した。





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