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「ところで神奈、タコはどこにあるんだ?」
「は? 中に決まってるだろ」
「え! この円の中に!? どんなちっさいタコだよ……」
「一応言っとくけど、一匹丸々入ってるわけじゃないぞ。足の部分が小さく切られてんの」

 へぇ、と爪楊枝に指した一つをマジマジと見つめてから、無造作に口に入れた。

 思っていた以上に高温で、吐き出そうになったのを何とか堪えたまではいいが、持って行き場の無い熱をどうすればいいのか分からない。

 足をバタつかせてもがいていると、隣に座っていた神奈が「アホか」と言いながら背中を摩る。

「熱いに決まってんだろ」
「知ら……のど、胃が……!」

 漸く飲み込んだ時に通った部分が、順に痛みを訴える。

「舌火傷したぁ」
「猫舌のくせにいきなり放り込みゃ、そうなるわな」

 神奈は慰めるように俐音の頭を撫でると立ち上がった。

「なんか飲みもん買ってくる。何がいい」
「え? ……ウーロン茶。冷たいの」
「分かった」

 俐音は神奈の背中を不思議そうに眺めていた。
 何か奢れと言えば渋々といった感じで奢ってくれることはあっても、今みたいに神奈の方から言ってくれたことは無かった。

 しかも、食べている途中だというのに。
 
「どうしたんだ、あいつ」
「優しくしたいんじゃない? 俐音は女の子だし」
「はぁ? それ今更なんだけど」
「だよね」

 俐音の尤もな言葉に樹は笑った。
 だけど、神奈はさっき、今まで俐音を女だと意識したことは無かったと言っていたが、それは裏を返せば今はしているということではないか。

 それに何事にも無関心な兄があんなに甲斐甲斐しく世話を焼いている所を始めて見た。

「そういやさ、樹は緒方先輩達知ってるんだ」
「まぁね。俺も中等部はこっちだったから」
「ふん?」

 頷きかけた俐音だったが、途中で首を捻った。
 神奈の弟だったらまだ中等部のはずだ。

「本当に何も話してないんだ」
「樹……?」
「俺と兄さんは腹違いの兄弟なんだよ。だから俺も高一。ついでに言うとね、名字も違う。それから……」

 俐音は素早く樹の口の中にもう大分冷めたたこ焼きを一個突きつけた。

「それ以上は聞きたくない」
「いいの? 兄さんは何も教えてくれないよ?」
「いい!」

 本当は聞きたくないわけじゃなかった。
 だけど、知りたいのは友達である神奈の事だから、弟であっても別の人から教えてもらうわけにはいかない。

「穂鷹達は知ってるよ」
「……いい、聞かない」

 頑なに拒む俐音に「なら言わない」と樹は笑った。




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