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「ねぇもう胸がムカムカすんだけど! これ絶対匂いついちゃってるよね? 身体に。やだよ僕、体臭がたこ焼きとかさ」
「我が侭言うな、それはみんな一緒だ」
「みんな一緒。あーやだやだ、それさえ言っとけば日本人は簡単に扱えるとでも思ってるんでしょ。この崖から飛び降りてくださーい、みんなも落ちたからダイジョブでーす」
「誰だお前」

 テントから聞き慣れた声と会話のやり取りが聞こえてきて、俐音と神奈は揃って足を止めた。

 見渡す限り何かしらの食べ物の出店が立ち並ぶ中で、選りにも選ってたこ焼きを食べようとした事を酷く後悔もした。

 樹だけが笑顔で「何だか賑やかだね」と暢気な事を言っている。

「神奈……私ちょっと人混みに酔ったかもしれない」
「それは大問題だ。たこ焼きなんて食ってる場合じゃないな。向こうに行くか」

 二人は棒読みでそう言うと、踵を返した。


 慌てず焦らず、けれど可能な限り速く歩く。テントが見えないところまで来ると、花壇を区切っているブロックに座り込んだ。

「まさか緒方先輩達のクラスの出し物だったなんて」
「あそこに近づいたら色んな意味で怪我する」
「で、樹は?」
「あんのバカ……!」

 さっき自分達が逃げてきた方向を見ると、ゆっくりとした足取りで樹が近づいてきていた。
 その手には白いビニール袋が握られている。

「樹! 大丈夫!? ?巻き込まれなかった?」
「うん、大丈夫だよ。たこ焼き買ったら馨先輩達がおまけしてくれた」
「買ったって、樹は勇者?」
「え、何で」

 無事に帰ってこられただけでなく、きっちりとたこ焼きも三パック買って来るなんて俐音には真似出来ない。
 緒方に捕まっていつの間にか遊ばれている自分が用意に想像出来てしまう。

「まぁ、せっかく買ってきたんだから、冷める前に食べちゃおうよ」

 樹はビニール袋からパックを取り出すと、一つずつ手渡した。

「確かこれはね、かつお節おまけしてくれてた」
「てんこ盛りっ! うねうねしてキモいんだけど!」

 俐音が蓋を開けると、たこ焼きが見えないほどにかつお節が敷き詰められていて、熱気と風でまるで生き物のように動きまわっていた。

「それからこれは……」
「青! ていうか緑!」
「そうそう、青海苔いっぱい入れてくれてた」
「入れる必要ないだろ、これ!」

 それ食べたら絶対歯にくっつくな。
俐音に言われて神奈は食べる気が無くなった。

「樹のは?」
「これが一番すごいよ。ソースとマヨネーズ多め」
「多めっていうか溢れてるじゃんか!」

 開けたパックを斜めにすると、ビニール袋の中にボタボタと二色の液体が零れ落ちた。




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