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 俐音が一度ラウンジに鍵を戻しに行くとクラスメイトの半数に笑いものにされ、もう半数には同情の目で見られ、そして直貴にはひたすら謝られた。

 やはり犯人は増田だったようだ。


「クソ、担任めー……」
「そのカッコでクソとか言うなよ鬼頭」

 よう、と片手を挙げながらカウンターに入って来た増田に、俐音はすかさず拳を振り下ろした。
 だが難なく受け止められると、逆に腕を掴まれた。

「せっかくだからな、とことん女装を極めようぜ」
「なに、言って……やめろ離せ! だ、誰か助けろーっ!」

 カウンター内から叫び声が聞こえてきたかと思うと、スーツ姿の男が暴れる女子高生を引きずって出てきて、そのまま外へ連れ出してしまい、店内は一時騒然としたという。





 俐音が増田に連れ去られてから少し時間が経った頃。

 各クラスの出店が一番多く、テントが隙間無く張られていて唯でさえ校内で最も混雑の酷い中庭の端で、明らかに他の通行者の流れを邪魔している人の塊があった。

 チラシを配っていた穂鷹が、女の子のグループに呼び止められてしまったのだ。
 俐音への恋心を自覚してからは女の子の誘いに乗るような事はしなくなったものの、人当たりがいいのは変わり様が無く、なかなかあしらえないでいた。

 適当な相槌しか返していないが、女の子達の会話は途切れず、刻々と時間が過ぎてゆく。

「穂鷹!」

 この雑踏の中でも聞き間違えるはずのない声で名前を呼ばれて振り返ると、人を上手く避けながら穂鷹の方へと一人の少女が駆け寄ってきた。

 その少女とはやはり間違いなく俐音なのだが、少し季節外れの半袖のセーラー服を着て、走るたびに長い髪を揺らし、控え目に笑みを称えながら手を振る姿は普段の彼女とはかけ離れている。

「俐音ちゃ……」
「良かった見つかって。探した」

 息を切らせながらやっと穂鷹の元まで辿り着いた俐音はセーターの袖を引っ張って安心したように微笑んだ。

 な、何だこれ……幻覚?

 俐音の豹変ぶりにどう対応すればいいのか分からなくて固まっていると、更に一歩近づいて奥深い瞳でジッと見つめてきた。

「約束の時間になっても来ないから心配したんだよ、行こ?」

 穂鷹の腕に自分のものを絡めて引っ張る。

 約束って何。しかもその女の子らしい喋り方もどうしたんだ。
 疑問は色々浮かんできたけれど俐音に逆らえるわけもなく、「じゃあ行くわ」と軽く女の子達に手を振って穂鷹達はその場を離れた。




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