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 制服に着替える為、二人はラウンジの近くにある控え室まで来た。
 万が一、外で衣装を汚すような事があっては困るという理由で呼び込みは制服で行っている。

 先に着替え終わった神奈を追い出して、俐音は制服を入れたロッカーを開けた。
 だが次の瞬間にバンッと大きな音がするほど勢いよくまた閉める。

「……あれ、ここに入れたよな? ここで合ってるよな?」

 わざと声に出して言い、ロッカーの位置を確認しながらもう一度ゆっくりと開けた。

「なんじゃこりゃー!」

 中に入っていたのは俐音の制服ではなく、以前に試着させられたセーラー服。隅々まで食い入るように探してもそれ以外の衣類は見当たらない。
 ハンガーごと引っ掴んで俐音は部屋を出た。

「神奈、ラウンジ戻るぞ!」
「は? つーか早く着替えろよ」
「着替えろっていうのか、これに!」

 前に突き出された見覚えのあるセーラー服に、神奈は一拍置いてから「別にいいんじゃねぇの」と適当な返事をした。

「いいわけないだろ、何で一人だけこんな服着にゃならん」
「今日は変な服着てる奴なんか腐るほどいるから目立たねぇって」
「そういう問題じゃない!」

 重要なのは周囲の人間がどんな格好をしているかではなく、俐音が何を着ているかだ。
 例え目立たなかったとしても羞恥心が拭えるわけではない。

「多分、俐音の制服は増田が隠してるんだろ。だったら見つけるのは無理だろうし、どっちか着てるしかないと思うけど」

 今のウェイトレスか女子高校生のどちらか。俐音にはどちらを選んでもあまり差のない二択に思えた。

「着替える……」
「五分以内な、それ過ぎたらドア開けるぞ」
「かん――」

 言い終わる前に控え室に押し込まれてドアを閉められた。

 開けるって言っても、鍵掛けりゃいいだけだ。
 ドアノブの下に付いているつまみを捻ろうと手をのばした時、見計らったようなタイミングでドアの向こう側から神奈の声がした。

「俺が鍵持ってるって事忘れんなよ」
「なっ! この……覗き魔、根性悪!」
「あと三分」

 ガンッという音とともに、ドアに凭れかかっていた神奈の身体に振動が伝わってきた。
 どうやら俐音がドアを殴ったか蹴ったかしたらしい。

 俐音が乱暴を働くのは今に始まった事ではない。

 この学校に来て、男ばかりの環境に染まってしまったからというわけではなく、もともとの性格からすでに男っぽさが目立だった。

 そのせいか、本当に女だと判っても特に何も思わなかった。

 俐音自身があれでは男だろうと女だろうと神奈は接し方を変えようという気になれない。
 多少は揶揄うネタが増えたというくらいだ。


 時間を計るために見ていた携帯電話の画面が突然変わり、一通のメールの着信を知らせた。

「おい、俐音」

 内容を確認してすぐにドアを開けてから、しまったと気付くがもう遅い。

「か、かん、お前……」
「あー、悪い」
「悪いと思ってないだろ、ていうか入ってくんのかよ!」

 スカートのホックを掛けながら、部屋に入ってきて後ろ手にドアを閉めた神奈を睨む。

「普通は慌てて後ろ向くとかしないか?ちょっとは恥じらいとか持て!」
「お前がな」

 本来、甲高い悲鳴の一つも上げてロッカーの裏に隠れるのは女である俐音の方だろう。

 だが俐音は今穿いたばかりの制服のスカートの下に重なっているウェイトレスのスカートを、よいしょと脱いだのだ。

「はい! 着替え完了。誰かさんが急かすせいでぐっちゃぐちゃになっちゃったけど!」

 脱ぎ散らかした服を、また雑にハンガーに掛けてゆく。

「それなんだけどな、俺用事出来たから行くわ。これ鍵」
「はぁ!?」

 暫くポカンとしていた俐音が、鍵と一緒に神奈が配るはずだったチラシまで手渡されていた事に気付いた頃には、廊下を見渡しても神奈の姿が見つけられなくなっていた。





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