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「二、三枚パクッても分かんないね」
「パクッてどうすんだよ……」
「どうって、そりゃ見るしかないでしょ。あ、俐音ちゃんも一緒に観賞する?」
「誰がするか!! もう成田も一緒に捕まっとけ! つーかこんなもん全部処分だ、処分!!」

 ダンボールを忌々しげに睨み付ける俐音に成田は笑いつつも、どこか違和感を感じた。

 確かに柔道部が部費をこんな事に使っていたのは馬鹿だとは思うけれど嫌悪はない。
 俐音の反応はどこか女の子を思わせた。

「まず一緒に職員室に来てもらおうか」

 緒方とは対照的に冷めた表情の小暮。
 俐音とは心情は違っているだろうが、くだらないと思っているようだ。

「だ、誰が行くか!」

 部員達はずっと動向を窺っていたというよりも口を挟む隙がほとんどなく四人してソワソワとしていたが、職員室という言葉に本格的に焦って一人が強行手段に出た。

 ダンボールの中を物色しようとする成田を非難している俐音に勢いよく襲いかかったのだ。

 俐音は素早く反応して男をかわし、後ろへ回り込んだ。
 そこへもう一人が右腕をかざし、拳を振り下ろしてくる。

 それも横へ飛び退くと、急には止められなかったパンチが、とっさに振り返るしか反応出来なかった男の顔面に直撃した。

 仲間を殴ってしまった事に驚いている隙をついて、その部員の足を払い、そして思い切り倒れこんだ部員の背中に跳び乗った。

「ぐえっ」
「お前は蛙か」

 肺を急激に圧迫すれば人間とは思えない声も出るだろうが、自分でしておいて俐音の吐いた言葉は痛烈だった。

 あとの二人が抵抗する気も失せてただ呆然と立っているのを見てため息を吐く。

「こんな狭い場所で暴れやがって! 大体、なんで俺なんだよ。その前に神奈とかいただろうが」
「やっぱ一番ちっちゃいからじゃない?」

 事実、背が低く華奢な俐音なら簡単に殴れると踏んでの行動だった。

「こいつ等……それでも武道家の端くれか!? 正々堂々と勝負しようとか、そういう武術の心得みたいなものを持ち合わせていないのか!」
「持ってたら横領なんてしないと思うよ」

 緒方は床に転がるもう一人の部員の顔に楽しそうにサインペンで落書きをしながら言った。

 俐音のいる場所からだと何を書いているのかは見えないが、ずっとペンが動いているから、一箇所や二箇所だけの落書きではないようだ。

「ていうか武術の心得って……」
「神奈うるさい!!」

 ダン、と床もと下敷きにしている部員の背中を蹴る。

「ねぇリンリンそっちの人にも落書きしていい?」
「いいですよ」
「やっぱ額に肉は鉄板だよね」

 成田がもがく部員の頭を押さえて固定し、緒方がわざとゆっくりサインペンを顔に近づける。

 「やめろ!!」とか「ぎゃーっ!」という断末魔に近い叫び声が部室内に響き、見事にでかでかとした肉という文字が額に刻まれた。

「今度こそ職員室行こうか」

 緒方の気が済むのを待って小暮が促す。もう部員達も抵抗しようとしない。





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