▼page.13 「え、じゃあ次もやっていいの?」 「今すぐ殴られたいのか、分かった。覚悟決めろ」 「いや、違……わない、でもやめてー!」 「要求が多いのはどっちだ! 全然反省してないじゃないか!」 冷気を垂れ流している冷凍室からアイスノンを掴んで穂鷹に向かって投げた。 ついでにハンカチも放ったけれど、それは空気の抵抗を受けてひらひらと中途半端な場所に落ちた。 結局それを拾い上げて穂鷹に手渡す手間が掛かったのが全くもって決まらない。 「ちゃんと冷やしておかないと腫れるかもしれない。……それと、ごめん」 「ん? なにどうしたの?」 「あの時のあれ、嘘だから。どんな穂鷹でも嫌いじゃない」 何の事を言っているのか分らなかった。 だが暫くして、俐音が自分の発言に何日も気に病んでいたのだと気付き。 「俐音ちゃん……、もうやっぱ好き」 「ああそうかい」 アイスノンで頬冷やしながら言われても、感動できやしない。 「……ねえ、もう終わり? ちょーつまんない! 僕この状態でずっと待ってたんだよ? 自分の席に座った俐音に緒方が携帯の画面を見せた。 白い画面の右端に119という三文字のみが表示されている状態だった。 「リンリンやっちゃいな、みーが隠蔽してくれるよ!」 「それって流血沙汰希望って事ですかっ!」 「僕一度でいいから、救急ですか? 消防ですか? ってやつやってみたいんだよね」 そんなくだらない理由で人を前科者にさせないでほしい。 文句を言いながらポケットに電話を仕舞う緒方の隣では小暮が肩を揺らして笑っている。 「ちょっと小暮先輩何か言ってくださいよ!」 「え? 久しぶりに全員揃って賑やかでいいじゃないか。鬼頭も元気になったみたいだし」 「そんな事言われたら……、彩だったら絶対助けるくせに。あ! さっき彩が生徒会室で変態に目つけられてましたよ 「そーそー、何て言ったっけ、砂漠?」 どんな間違い方だ。 あれだけインパクトのある人物の名前を覚えないなんて、さすが緒方だと褒めているのか貶しているのか曖昧な事を考えながら「佐原です、緒方先輩」とそれだけを言った。 眉間に皴をよせて、無言で部屋を出て行った小暮の姿が見えなくなってから俐音はいってらっしゃいとばかりに手を振った。 「小暮先輩って意外と突っつき易い……」 「聡史はいつでも余裕ないからねぇ」 「アイツ帰ってくるんだろうな。こんなに仕事残ってんのにどうすんだ」 「あっしまったぁー!」 黙々と隣で作業をしていた響の言葉に緒方が叫ぶ。 こちらの都合などお構い無しで大量の雑用を理事長に押し付けられているこの状況で、一番の働き者である小暮がいないのはかなりの痛手だ。 「響がんばって」 「何で俺なんだよ」 「私を困らせた罰だ」 「はぁ? 穂鷹に言え」 眉間にしわを寄せて意味が分からないといった風な響に、少しばかり腹が立った。 前 | 次 戻 |