▼page.7 「あの子らAクラスだって言ってたじゃん! 守村なんで教えてくんなかったんだよ!?」 「ああなるって分かってて誰が教えるかっ。駒井は怯えるし俐音は怒り狂うんだぞ!」 「俐音!? なに下の名前で呼んでんの、どういう仲なわけ」 「友達だ! このド変態が!!」 「俐音か。名前まで女の子だなぁ」 「だぁぁ、佐原と話てると苛々するー!」 髪を掻き毟る直紀に二年生達は苦笑するしかない。 「佐原のペースに飲み込まれるなって。アイツは常に一人で会話してるから」 「でも、俐音に絡んだら痛い目見ると思うよ。色々と」 そう言う安部の頭には壱都の顔が浮かんでいた。 他人に興味を持たない彼が、俐音を気に入っているらしい事はこれまでに嫌というほど知らされている。 そして壱都を怒らせてはいけないというのは、彼らにとって校則などよりも気をつけて守らなければならない事柄なのだ。 「大丈夫っス! 俺打たれ強いから。夢は宮西先輩も入れて三人でメイドのコスプレしてもらう事に決めました!」 「……そう。壱都に殺されないようにね」 「死んでくれ。出来うる限り苦しんで息絶えろ」 げんなりしながら巧は毒づいた。 「忠告はしたよ、後はご自由に」 壱都を知らない佐原に何を言っても無駄だ。 佐原も俐音も、結局のところどうなろうと安部には関係の無い事。 ならばこれ以上のフォローはしてやる必要性など見出せない。 いっそ佐原に盛大に絡んでもらって、壱都の反応を窺うのも楽しいかもしれないな、など俐音が聞けばまた憤慨しそうな考えが過ぎった。 * 緒方と俐音が欠けた特別棟で、小暮はソファに座りお茶を啜っていた。 「まったく……」 湯呑みをことりとテーブルに置くと、前に座る穂鷹と響を見て呆れた表情を作った。 先程から穂鷹は困ったように眉を下げ、響はぶすっと横を向いたまま黙り込んでいる。 「お前等が怯えさせてどうする。何かあった時に一番頼りにするはずの二人にまで警戒してたんじゃ鬼頭の身が持たないだろ」 焦る気持ちも解るけど。 そう付け加えながら急須から二杯目のお茶を注ぐ。 「二人が隣にいると思えばこそ、あそこまでのびのびと学校生活を満喫できてるんだからな」 湯気で曇った眼鏡を拭く小暮に、なんだか父親に怒られている気分だと穂鷹がぼんやりと思ったことは口にしない。 実の父親はこんな風に尤もらしく説教をしたりはしないが、あくまでもイメージとしてしっくりとくる。 そして父親との仲が芳しくない穂鷹としては、少しばかり感動を覚えたのも言えるはずがない。 「すみません……なんか抑えが効かなくてつい勢いでやっちゃいました」 「変態」 頭を掻きながら素直に謝った穂鷹に、一人窓に凭れて外を眺めていた壱都が辛辣な一言を浴びせた。 本来ならば彼には言われたくないところだ。 前 | 次 戻 |