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 緒方が俐音の手を取って持ち上げ、そして空中で離した。
 すると重力に従ってパタリと腕はお腹の上に落ち、そのまま動く気配はない。

「完全に事切れたねぇ」
「ね、寝てるって言ってください!」

 目を瞑ったままピクリとも動かなくなってしまった俐音は、小さく上下している胸をよく見ないと息をしているのかさえ疑ってしまいそうなほどに静かだ。

 あるはずもないのに、まさか…という考えが彩の頭を一瞬過ぎった。
 だから、緒方の発した言葉は明らかに冗談なのだが、それは悪いものにしかならなかった。

「俐音は調子悪かったのか?」
「寝不足だって言ってた」

 直貴は彩の答えに「そっか」と納得したものの、額に手を当てて熱がないか確認する。

 顔色はあまり良くないが、手から伝わってきた体温は特に熱いという事はなく、ただ寝ているだけだと安堵の息を吐いた。

「一応保健室に持って行こうかな」
「連れて、行ってあげて下さい」

 よっこいしょ、と俐音の両腕を肩に掛けて背負った緒方に直紀がすかさず訂正を入れる。

「あ、ちょっとそっちの子は待った」
「……え? ボク、ですか?」

 緒方の後ろについていた彩は、一瞬話しかけられたのだとは気づかずに部屋を出て行こうとしたが、この中で名前を把握されていないのは自分だけだと思い至って勢いよく振り返った。

「そうそう。お前明日もここ来いな」
「へ? あの、どうして……」
「それは明日になったら分かるから。とにかく来いよ」
「……はい」

 生徒会長にひどく上からものを言われて、彩には抵抗する事も出来ずに力なく頷くしかなかった。





 緒方達が出て行ってから暫く、生徒会室では全員が黙々と作業をしていたのだが、その沈黙を破ったのは佐原だった。

「さっきの子、元気キャラに見せかけて病弱っ子だったんですかね」
「お前また意味の分からない事を」
「鬼頭か」

 佐原の奇妙な言動は今に始まったわけではなく生徒会として顔を合わせた当初からで、その度に篤志は呆れるのだが、巧はそれすら面倒で端的に要点だけを掻い摘んで、スムーズに会話を交わす技を身につけ、必要以上には突っ込まないようにしている。

 そうしないと彼はどこまでも突っ走ってしまうのだ。

「女の子みたいな顔して威嚇しまくる猫みたいな性格のくせに病弱とか、そのギャップは萌え要素だと思いませんか!?」
「萌えかは知らんが、そんな事考えてるお前に素で引く」
「いつも言ってますけど宮西先輩も萌えですよ!」
「死ね」

 巧の態度は実に冷たいのだが、いつもの事だから気にしていないのか聞き流しているのか、佐原は「そういえばさぁ」と話を続けた。



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