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「何す……ぎぃやぁー!」

 ぐいと足を引き寄せられ、体ごと床を滑る。

「離せーっ! 気持ち悪いー……!」
「大丈夫、大丈夫」

 佐原の元まで手繰り寄せられてしまい、必死で遠ざかろうとするけれど、上手く力が入らない。

 仕方ないから首でも絞めようかとしたところで、佐原の体が離れた。

 横から緒方が蹴り飛ばしてくれたらしい。
 俐音の傍に転がった佐原の肩に乗せた右足に重心を掛けて押さえつけている姿がとても頼もしく見えた。

 痛々しい悲鳴が聞こえてくるのだが、誰も同情はしない。

 俐音は起き上がって服についた埃を払った。

「ちょっと。みー、後輩の躾どうなってんの」
「バカと変態は死んでも治らん。絡まれたら自分の身は自分で守れ。流血沙汰になっても多少は隠蔽してやる」

 つっけんどんに返す巧は、佐原の絶叫が喧しいと耳栓をつけている。
 そんなものを常備しているという事は、普段から佐原はあの調子なのだろう。

「みーが躾放棄しちゃったよ、ていうか生徒会長自らが学校の風紀を乱すような事言ったし」
「この学校は変態か性格悪いかのどっちかしかいないんですかね」

 緒方と俐音は佐原の顔にマジックで落書きをしながら呑気な会話をしていた。
 もちろん、もがくので押さえつけながらだ。

「オレはどっちにも入らないよ?」
「安部は性格悪いに決まってるだろ」

 心外だと言わんばかりに傷ついたふりをする安部に間髪入れずに返す。

 図々しいにもほどがある!

「緒方こそ後輩の教育行き届いてないみたいだよ」
「リンリンの言ってる事は正しい。でも僕も含まれてるなら話は別だからね」
「緒方先輩顔が怖いです」

 緒方の場合は、自分さえ良ければそれでいいといった発言が目立つ。
 そしてどうして全員が自分だけは正常だと思い込んでいるのかが俐音には不思議でならない。

 この部屋に来てからの異常なテンションのせいで軽い酸欠になり、更に頭痛も重なって俐音の疲労は限界に達した。視界が霞み、手を当てた。

「ああ……死んだら呪って出てやる……」

 しゃがみ込んだにも拘わらず気持ちが悪さは楽にならなくて、床にそのまま寝転がった。
 それでもましになったわけではないが、頭を少しも上げていたくない気分だ。

「俐音!?」
「おい大丈夫か?」

 心配そうに覗いてくる彩と直貴がぼやけて見えた。

 そうだ、この二人は性格はいいし、精神的思考も健全だ。
 まだこの学校生活も拠り所があるんだと思うと安堵からか体に力が入らなくなって意識が薄れていった。




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