▼page.3 生徒会室に入ると直貴が俐音と彩を見て、あれ? という顔をした。 けれどすぐに事情を把握したらしく「ケーキは冷蔵庫ん中」と顎で部屋の端を示した。 「じゃあケーキ貰って俺らはさっさと帰ります」 「なんだ鬼頭、タダで持って行く気か? 世の中ギブアンドテイクだ。手伝え」 女にも見える綺麗な顔に似合わず強い口調でそう言った巧に、俐音はひくりと頬を吊り上げた。 「あのですね、この前手伝いましたでしょう、たっぷりと。しかも第二までお使いも頼まれましたよね、何故か。そのお礼だとしても足りないくらいなんですけど!?」 「三日以上前の事は記憶から抜けるんだ。覚えてない」 「病院行ってください、それが事実なら重病だから!」 まともではあるが、強引な巧に「この学校の二年生に普通の人はいないのか」と言いたくなる。 「で、第二の奴らとは仲良くできたか?」 「はぁ、まあ……」 約一名を除いては。不覚にも泣かされた事を思い出して顔を顰めた。 巧は俐音が顔を曇らせたのを見たが何も言わなかった。 突っ込んで訊けるほど、お互い心を許してはないない。 「あ、美保さんが会いたがってましたよ。幼馴染なんですね……あのお人と」 「やっぱりそういう感想になるよな、あいつに会うと」 魔王と称した事もある幼馴染は、やはり俐音もげんなりさせるほどの灰汁(あく)の強さなのだと巧は納得した。 「厳密には俺でなく俺の姉の悪友だ。そうだ侑莉のせいだ、侑莉さえ仲良くならなきゃ」 「そんな事言ってー。シスコンのくせに」 「黙れ仕事しろ!」 「やだわ、みーさんったら照れちゃってー!」 「お前な……ぁ?」 勢いよく怒鳴りかけて、口を開けたまま驚いたように止まった。 巧だけでなくその他全員の表情も変わらない。 ただ一人「どうしたのー?」とあっけらかんとしている人物以外。 「お、お、緒方先輩!?」 「お前……いつの間に!?」 俐音と篤志の声がかぶさった。 「みんな驚きすぎ」 驚きもするだろう。ドアの開閉音も人が入ってくる気配も誰一人として全く気づかなかったのだから。 みんなの反応に満足した緒方は当然のように、冷蔵庫を漁りお茶を飲み始めた。 「珍しいね、緒方がここに来るなんて」 「ほんとだよ。リンリンと駒井くんが入っていくのが見えたから仕方なーく。ちょっとリンリンに物申したい事あるしさ、拉致ろうと思って」 笑顔を引っ込めた緒方は安部の隣を通り過ぎて俐音と彩の手を取った。 どうやら拉致られるらしい。 前 | 次 戻 |