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 俐音と先輩二人を交互に見比べて、どうすればいいのかとオロオロしている彩の横をすり抜けて歩き出す。
 そうすれば彩もつてくると思ったからだ。が、しかしそう易々と相手も行かせてはくれない。

「鬼頭ー、それ通じるとでも思ってんのかぁ?」
「さあ何の事だか。俺の目には彩しか映ってない」
「いやバッチリ今見てんじゃん。しかも聞こえてるし」
「しまった……」

 後ろに引っ張るように肩を組まれて、思わず普通に話してしまった。何も考えずに生活するのも良し悪しだ。

「コンニチハ先輩方。サヨウナラ」
「こらこらこら。なんだその機械的なしゃべり方は! ちょっとこの前の礼でも言おうと思っただけだって!」
「生徒会室に戻ったらケーキあるけど食べる?」
「……もらって帰っても?」
「ほんっと食い意地張ってるね」

 苦笑する安部をじとりと睨む。

「君の分もあるからおいで」

 笑顔で彩を手招きする安部にハッとして、急いで二人の間に入った。

「彩は行かない。俺が二個もらって後で渡す」
「なんでそう警戒するかなぁ」
「安部の顔は信用しちゃいけない顔だ!」
「顔で判断されてたんだ? うーん困った」

 安部のこういう所が俐音がいただけないと思う。苦笑しながら困ったと言うけれど、絶対に俐音からどう思われようと気にしてないはずだ。そのくせ、やたら絡んでくる意図が掴めないから余計に警戒してしまう。

「マジで困ったな、千春!当たってんじゃーん!」

 けらけらと笑う篤志はまるで裏表がなさそうで、きっと嘘つけないだろうなと思う。
 逆にこういう人は好感が持てる。
 安心して向き合う事が出来るから。

「安部も篤志先輩みたいだったらいいのに」
「いやだよ」
「どういう意味だっ!」
「バカにはなりたくないって意味」
「いいじゃないか。気楽に生きられると思う」
「鬼頭お前なぁ!?」

 言いながら立ち去ろうとしたのに、またもや篤志に肩を掴まれた。
 本当にもう早く帰りたいのに。

「ケーキは明日にでも直紀から貰うという方向で」

 彩の背を寮のある方向のドアへと押しながら、これでもう話はお仕舞いだとアピールをする。

「賞味期限は今日までだよ」

 アピール失敗。安部の笑顔が憎くて堪らない。
 何より、いらないと言えない正直な自分が恨めしい。

 ぐらぐらと意思が揺らぐ。

「何でそんな甘いものに目がないんだろうね、おんな……」
「安部バカだろ篤志先輩みたいになるまでもなく!!」

 今またさらりと暴露しようとした安部に思わず叫んだ。
 発言にもう少し責任を持って貰わなければ困る。

 奇跡的に俐音の周りの人間は、性別を気にしない者ばかりだから助かっているが、簡単に口にして良い話題ではない。
 ここは本来女が通ってはいけない男子校なのだ。

「安部は黙ってろ、口の軽い男はモテないぞ!?」
「今以上は求めてないよ。黙っててあげる代わりに生徒会室来てね」
「………態とか。お前本当に嫌な男だな」

 脱力というか、既に疲れきってしまった俐音は彩と一緒に足を引き摺るようにして生徒会室に行く羽目になった。

 ああ頭が痛くて仕方ない。




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