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「ホント大丈夫なんで! 私元気が取り得なんです!」

 先程の緒方くらいに訳のわからない言い訳をして、俐音は開きっぱなしのドアから走って逃げた。

 頭の中で穂鷹が言った「壱都先輩のこと好きなの?」という言葉がぐるぐると回った。


 右手を俐音の額に当てた時のままの状態で、ドアの方を暫く見ていた壱都だったがゆっくりと体を動かして後ろを向いた。

「どういうことなの? 響」
「俺じゃねぇよ、知らねぇって」
「じゃあ穂鷹?」
「はーいオレでーす」

 静かな怒気を放つ壱都にたじろぎながらも、穂鷹はどこか楽しそうに言った。

「え、ほーちゃんついに告白!?」
「してなけど。でも我慢しきれなくってちょっとキスしたらあんな感じ」
「それで、何でこっちまで警戒されなきゃいけないわけ」

 あ、と全員が察した。
 壱都の機嫌が良くないのは感じ取っていたが、段々と回りの温度までも下がり始めたように感じる。

「それは俐音ちゃんに聞いてみない事にはなんとも」

 はっきりしない穂鷹の回答に壱都は舌打ちをした。

 これだから嫌なのだ。
 恋愛感情が絡めばロクな事にならない。

 しかも自分の方にまで飛び火してくるなど冗談ではない。

「帰る」

 俐音がいた時とは別人のように何の表情もなく出て行く壱都を見送って穂鷹は息を吐いた。

 やはり、どこか掴みどころの無い彼は苦手だ。
 あの目で睨まれると全て見透かされているようで落ち着かない。

「イッチーご立腹ね。でもほーちゃんはあんまりじゃん? リンリンに避けられて落ち込んでるかと思ったら」
「そりゃぁだって。怒ってたらどうしようかとは思ったけどね、あんなあからさまに意識してくれちゃったら嬉しいじゃない。もっと困らせたいなぁって」
「ほーちゃんって人当たりいいから勘違いされるけど、かなりいい性格してるよねー」
「馨と同じ血が混じってるからねー」

 そう言って笑い合う二人はなるほどよく似ていた。
 内容が内容だけに微笑ましいのか悩むところだな、と小暮が二人から目を離す。

 出て行った俐音と帰った壱都が抜けた部屋はやはりいつもと違って広く感じる。
 そのせいだと思ったのだが、部屋の中をもう一度見渡した。

「響は?」
「いない! いつの間に!? イリュージョンだ」

 一体いつからなのか、響も部屋から出て行ってしまっていた。




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