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「福原先輩、ちょっとこれどうにかなんないですか……?」
「え? 何が?」
「いやもう本当やめ」

 精一杯の力を出して後ろを向くと、福原の更に後ろ、部屋の入り口にポカンと口を開けた状態で立っている神奈と目が合った。

「何やってんだ?」
「何って、これなんですか? 福原先輩」
「なんだろうね」

 ようやく離れた福原が、ニコリと笑って言った。
 自分でやっておいてそれはないだろう。

 だが清々しいまでの笑顔に視線を逸らしただけで何も言えなかった。

 ソファに座った他のメンバーは何故かジッと俐音達の方を見ていて、俐音が「何?」と訊くと、慌てたように成田が首を横に振った。

「何でもない、何でもない! それよりさ、響も来たことだし話進めようよ。帰るの遅くなっちゃうよ!」

 早口で違う方向に話を持っていこうとするのは不自然で。

 何でもないって事はないだろうと考えようとして隣を見て、これかと思った。

 原因は福原に違いない。
 俐音からしてみればスキンシップの激しい人だな、という程度のものだが他の人からすれば男が男に抱きついていたのだから、それは奇異に映っただろう。

 では福原は俐音を男だと思っているのに抱きついたのか、それとも女だと気づかれたのか。
 
 気づかれたとしても何で抱きつく必要があるんだと様々な疑問が生まれて、取りあえず福原から距離をとった。

「これ、お前のだ。携帯しとけよ」

 ソファに座ると神奈に金色のカードを手渡された。

「この部屋の鍵だ」
「うわぁ、すっご」

 キラキラ輝くカードを珍しげに触ったり掲げたりする俐音。

「気に入ったみたいだな」

 そんな俐音を見てクスリと笑ったのは小暮だった。

「で、本題な。どうやら柔道部が部活とは関係ない事に部費を使い込んでるらしいから懲らしめてこいって話だ」
「懲らしめる? これのどこが愉しそうなんですか、緒方先輩」
「ぜーったい面白い事になるよ、これ!」

 その自信がどこから来るのか分からない。
 だけどこれ以上聞いても答えてくれそうになかったし、神奈に「行けば分かる」と言われて諦めた。

「理事長ってさすが経営者だよね、お金の動きに目敏い」
「部費どころか自分はとんでもない額を浪費してるくせに……」

 特別棟の件以来、俐音の中で理事長はかなりの浪費家であるとインプットされている。

「『自分の金をいくら何に使おうと文句は言わせない、だけど他人が一円でも勝手に使おうもんなら容赦なく潰す!』って前に言ってたのを聞いた事がある」
「人類滅んでも自分は生き残るって絶対思ってる人だよね」
「何それ、どんな理屈で?」
「だから理屈が通らん人なんだって」

 神奈と成田は理事長を貶そうとしているわけではないし、嘘もついていない。
 自分が聞いたまま、思ったままを俐音に教えているだけ。

 二人がもし「理事長ってどんな人?」という質問を受けたなら、迷わずに「今まで出会った中で一番敵に回したく無い女性」と答える。彼女はそういう人なのだ。

 その後も他愛もない話をしながら目的地へと向かった。





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