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 いつの間にか握られていた手が熱くて仕方ない。
 そこから派生した熱が顔にまで上がってきて、俐音の顔は見れたものじゃない。

 手を振りほどいて隠したいのに、強く繋がれていて出来なかった。

 いつもいつもヘラヘラとしているくせに、どうして穂鷹はこんなにも真剣な表情をしてるのだろう。

 どうして私はただ一言「違う」と、そう言えばいいだけなのにこんなにも焦ってる?

 言葉に詰まってただ穂鷹を見返すしか出来ない。

「俐音ちゃん……」

 焦れたように早口で言うと、思い切り俐音の体を引き寄せた。
 咄嗟に目を瞑っているうちにどこをどうやったのか、体をぶつける事なくストンとソファに倒されて。

 ゆっくりと目を開けると、至近距離から穂鷹が見下ろしていた。

「ほ、だか?」

 近すぎる整った彼の顔の表情は怒っているのか、困っているのかよく分からない。

 分からないのはこの状況だってそう。
 壱都の話からいつの間にこんな事になってしまったのか。

 穂鷹が突拍子も無い事を考えた原因は今週の月曜日、つまりは四日前にあると思われる。

 二年生が修学旅行から帰ってきてから初めての登校日である月曜日の放課後、俐音達はいつものように特別棟で先輩達を待っていた。

 俐音が少しそわそわしていたのはお土産をもらうという使命のため。
 穂鷹と響はそう思っていた。

 だが俐音の心にあったのは壱都に会いたいという思いだった。

 何故かと言えば、第二高校へ行った際に出会った双葉という生徒に壱都を全否定されたのが腹立たしくて苛立たしくて、何より悲しくて。

 早く壱都の顔を見て、優しく笑いかけてもらいたかった。あんな奴の言う事なんて嘘だと確信したかった。

 だから、部屋に壱都が入ってきた瞬間に俐音は駆け寄ってその胸に飛び込んだ。
 みんなが驚いた雰囲気が伝わってきたけど、壱都は冷静に俐音を受け止めあやすようにポンと背中を叩いた。

「久しぶり。寂しかった?」

 その声も口調も何もかも俐音の知っているもので、安堵から暫く壱都にくっついていたし彼も必要以上に俐音を構ってきた。

 普段なら途中で離れようともがいたりもするのだけれど、そんな気は起こらずされるがまま。

 しかもそれが今日まで数日間ずっと続いていたりするから、穂鷹が勘繰ったのだろう。
 簡単に言ってしまえば寂しさからくる行動で、一定期間を置けばまた元に戻るのだけれど。

 俐音は冷静にここまで考えた。わけでもなかったりする。
 必死に落ち着こうとしたが、この状況の打開策は生まれない。

 からかって壱都に、遊びでじゃれてくる穂鷹に、寝起きの響にちょっかいを出した罰に、今までも同じような体勢に無理やりさせられた事は何度もある。

 だけど今までこんなにも焦って、どうにかしないとなんて考えたりしなかった。

 ふざけた調子を微塵も見せない穂鷹の雰囲気に段々と重苦しさを覚えてくる。
 黙っている俐音が悪い。それは重々承知の上だ。

 けれども言いたくなかった。実際、恋愛感情であるかどうかは別として、俐音は壱都に好意を抱いている。

 もしもここで違うと言ってしまえば今持っている想い全てを否定してしまうみたいで、そんな事を口にしたくなかった。



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